その日、俺が部屋でスマホいじってたら、ドアの外から聞こえた、高めで鼻にかかった声。
「えー、マジここ?ガチで同棲してんじゃんウケる」
「同棲じゃねーし」
「え、じゃあなに?ハウスシェア?意識高」
廊下の向こうから聞こえるその声に、
俺はスマホを置いて、リビングの扉をそっと開けた。
いた。
るかと、ピンクベースに黒レースの服を着た、
見るからに“盛れてる自撮りだけ載せてそうな女の子”。
口元がやけに笑ってて、目は笑ってないタイプ。
「あ、もしかして“同居の人”?あは、ウケるー」
「……どうも」
「なにその返事。めっちゃ地味じゃん」
るかはソファに腰を下ろし、
その子は勝手にキッチンの水を飲んでから、俺の方を振り返った。
「ねぇ、あんたってさ。るかとどういう関係?」
「…ただのルームシェア」
「それ、どっちが言い出したの?」
「…俺」
「へぇ〜、じゃあさ。あんたって、なにになりたくてここいんの?」
唐突すぎる質問。
俺が言葉に詰まってると、るかが小さく舌打ちした。
「やめなよ、そういうの」
「なにー?別にさ、るかが“いいようにされてないか”気になるだけだし?」
空気が静かに濁っていく。
この子は、たぶん悪気ないわけじゃない。
ただ、自分の価値観だけでしかものを見ない人間なんだ。
「大丈夫。こっちが振り回されてる側だから」
「…あは、そっかー。そう見えないけどね?」
笑顔のまま言われたその一言が、なぜか少し刺さった。
⸻
その夜、友達が帰ったあと。
るかは珍しくソファで静かにテレビを見てた。
「……あの子さ」
「うん」
「うちのこと、“変わった”って思ってんだろうな」
「変わったの?」
「わかんない。…でも、変えたくてここ来たわけじゃない」
るかの声が、いつもよりちょっとだけ弱かった。