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翌日の午後、真理亜は一人でキッチンに立っていた。
慣れないシェアハウス生活に少し戸惑いながらも、昨晩は何とか眠れた。7人の男子たちは皆、個性的ではあるが、思っていたより優しく接してくれた。
大吾:「真理亜ちゃん、荷物まだ整理してへんのやろ?俺、一緒に取りに行こか?」
リビングから聞こえたのは、西畑大吾の声だった。
真理亜:「あ、うん……助かるわ」
真理亜は軽く笑い、大吾のもとへ向かった。彼の落ち着いた雰囲気にはどこか安心感があり、自然と心を許せそうな気がした。
二人はシェアハウスを出て、最寄り駅まで歩いた。
大吾:「……昨日、びっくりしたやろ?男7人と住むって」
真理亜:「うん。正直ちょっと怖かった。けど、みんな優しそうやったから、何とかやっていけそうな気がする」
真理亜は正直に答えた。
しばらく歩いた後、マンションのエントランスに着く。
エレベーターに乗ると、大吾がふと口を開いた。
大吾:「……なあ、真理亜ちゃん」
真理亜:「ん?何?」
大吾:「俺、真理亜ちゃんに会うの、初めてちゃうねん」
真理亜:「え?」
一瞬、空気が止まったように感じた。
真理亜は目を見開き、大吾を見つめる。
大吾:「昔、俺がまだ小学校2年生のとき、親にめっちゃひどいことされててさ。殴られて、閉じ込められて……そのときに助けてくれたん、真理亜ちゃんやねん」
真理亜:「……え?」
大吾:「俺、今でも忘れられへん。あのとき、小さな女の子が泣きながら俺の手を引っ張って、家から逃げ出してくれた。あれが、真理亜ちゃんやったんや」
真理亜は黙り込んだ。
胸の奥がズキッと痛んだ。
真理亜:「ごめん……私、全然……覚えてへん」
彼女は目を伏せた。幼いころの記憶は、病気の影響で全て抜け落ちている。覚えていたい、大切にしたいはずの過去が、何もないのだ。
大吾:「知ってる。真理恵さんから聞いてた」
大吾は微笑んだ。どこか切なげに、でも優しい。
大吾:「けどな、記憶がなくても、俺は真理亜ちゃんに感謝してる。命の恩人やから」
そう言って、大吾はスマホを取り出した。
大吾:「……LINE、交換してもいい?」
その問いに、真理亜は少し驚きながらも、うなずいた。
真理亜:「ううん。……ありがとう、話してくれて」
静かなエレベーターの中で、二人のスマホが「ピロン」と小さな音を立てた。
それは、再び始まった二人の関係の、ほんの小さな第一歩だった。