都内のブティックに、佐久間と深澤が来ている。
最近様子がおかしい深澤を佐久間が買い物に誘ったのだ。
佐久間は深澤から直接、気になっていた話も聞き出したいと思っていた。
買い物を終え、二人は深澤が行きたがっていたラーメン屋で食事を済ませる。
話し足りないのと、食後に甘いものが欲しくなって、人通りの少ない裏路地にある静かなカフェへと移る。
場所柄、業界人もたまに打ち合わせに使っている店だ。
平日の昼間なのもあり、店内の人影はまばらだった。
二人は奥まった角のボックス席に通される。
💜いやー、さっきの塩ラーメン、マジうまかったな
🩷たしかにうまかったけど、俺はもっとこってりの方がいいな~
二郎ラーメン好きの佐久間、塩やしょうゆでは少し物足りない。
💜俺、最近年食ったせいか、あっさりのほうが好きかも
🩷出た。おじいちゃん
💜やめろ、同い年だろ(笑)
他愛のない会話が始まる。
深澤の思ったより元気な様子を見て少しは気分転換になったかなと佐久間は思う。
🩷それにしてもお前、今日めちゃめちゃ買ったな
日頃から浪費癖のある深澤。
ギャラは入れば入るだけ使ってしまう。
グループが売れたおかげで収入は増えたが、それに比例して出ていく分も増えていく深澤。
深澤の場合、好きなだけ買い物をしても、それを上回るギャラが入るかは毎回綱渡りだ。
それにしても、と佐久間は両手に抱えきれないほどの買い物をした深澤を見てどうしても勘ぐってしまう。
ストレスの発散方法は、人によって運動や食事など色々とあるが、深澤の場合はそれが買い物なんじゃないかと佐久間は常日頃から思っていた。
決して安くはないブランドの店に入り、次から次へと値段もあまり見ずに買っていく深澤を見て、並々ならぬものを感じる。
🩷単刀直入に聞くけど
💜ん?
🩷お前、照のことが好き?
💜どういう意味だよ。メンバーや友達としてって意味なら…
🩷恋愛の「好き」だよ
佐久間は遠回りする隙を与えずに、ずばり切り込んだ。
さすがSnowManの切り込み隊長、佐久間大介。
大事だと思った場面では躊躇しない。
メンバーの恋愛事は個人の問題ではない。
アイドルという職業柄、恋愛に自由は許されないと佐久間は思っている。
特にグループ活動をしている自分たちは、同じ船に乗った運命共同体だ。
一人が身勝手なことをしたら、船はたちまち危険に晒されてしまう。
9人全員であらたまってそのことについて話し合ったことはないが、重大事であることはみんなわかっているはずだろう。
一方の深澤は、あの時から、事あるごとに岩本の様子を窺うようになってしまっていた。
どうしても岩本のことが気になってしまう。
岩本が渡辺を受け入れるのか、どうか。
自分に残された時間はどれぐらいあるのか。
今の所二人が付き合っている気配は感じない。
おかしなものだ。
岩本にそんな相手ができたら、自分の想いは押し殺して全面的に協力しようと思っていた。
そして自分にはそれができると思っていた。
しかしそれは大きな思い違いだった。
深澤はそこまで心が広くもなく、お人好しでもなかった。
岩本に名乗りを上げた人物が渡辺だと知った途端、自分にも許されるのではないかとどうしても考えてしまう。
それは渡辺が男だから?
それとも渡辺がメンバーだから?
あるいはその両方?
自分の中に湧き上がる焦りと葛藤が、今や深澤の心を全面的に支配している。
🩷深澤、何考えてる?
💜いや…
物思いに耽っている深澤を佐久間が心配そうに見つめる。
🩷俺は深澤が照を好きになるの解るよ
💜佐久間…
🩷照、かっこいいしな
💜……
🩷俺たちこういう仕事じゃん?女の子と軽い気持ちで個人的に会えないし。結局メンバーと一緒にいる時間が一番長くなるし。そもそも出会いが足りないから……
💜違う
深澤は反射的に否定した。
岩本だから気になる。
岩本だから好きになったんだ。
深澤の中で強い反発心が湧いた。
💜そんなんじゃない
🩷……
💜俺は照だから好きなんだ。
一呼吸置いて、もう一度確かめるように深澤はきっぱりと言う。
💜照のこと以外考えたことがない
佐久間は深澤の岩本への想いを黙って聞いている。
深澤は言い出しこそ口が重かったが、それからは諦めたように白状した。
隠していた想いが溢れて、うっすら目に涙も浮かべている。
🩷……そんなに好きなら言えば?
💜……
深澤は佐久間に渡辺のことは言えない。
さすがにそれは渡辺に悪いと思っている。
佐久間は続ける。
🩷そんな状態でこのまま照とやっていけるのか?
💜………
🩷気持ち、伝えなよ。その後のことは照に任せたらいいんじゃない?
💜そう…かな?
🩷うん。照を信じて
佐久間の優しい言葉に深澤は涙が止まらない。
🩷よし、この話は終わり
二人はこのことにはそれ以上触れずに、残りの時間も一日中買い物を楽しんだ。
佐久間は本当にもう何も言わなかった。
佐久間の優しさが深澤を癒した。
それからしばらく経った日
深澤の携帯が震える。
電話に出る。
岩本からだ。
💛着いたぞ
💜うん、今降りる
今日は予定を合わせて二人で富士急ハイランドに行くことになっていた。
深澤は車の免許を持っていないので、二人で遠出する時には自然と岩本が運転係になる。
いつものことなので岩本は何も言わない。
そもそも、岩本は運転が嫌いじゃない。
休みの日には人里離れた山に行ったり、SASUKEで知り合った友人の家にトレーニングに行ったり。
岩本は家に籠るより、外に出掛けているほうが好きだ。
マンションから深澤が現れる。
岩本の車を見つけると、慣れた様子でさっさと助手席に乗り込む。
💛楽しみ
💜だな
岩本が笑う。
岩本と深澤はこうして二人でたまに出掛ける。
最近では頻度こそ減ったが、今日の富士急は前から約束していて、深澤も楽しみにしていた。
あの件があって以来、なんとなく岩本に距離を感じていた深澤だが、今日は二人きりなので誰に気を遣う必要もない。
それに何より一日中岩本を独り占めできるのが嬉しい。
💛山梨まで結構あるから、寝てていいよ
💜今日は起きてる
岩本が意外そうに深澤を見る。
いつもは助手席に座ると安心しきって出発後間もなくで寝てしまうのに。
二人はしばらくお互いの仕事のことや近況を話す。
穏やかで心地良い時間が流れる。
ところが、そろそろトイレ休憩でも、と岩本が隣りを見ると、いつのまにか深澤は眠っていた。
岩本は静かに笑う。
車内の音楽のボリュームを下げて、運転もより丁寧に、深澤を起こさないように現地に向かう。
高速を使って合計2時間ほどのドライブ。
岩本は一人で変わっていく景色を楽しんだ。
規則的に聞こえる深澤の寝息が温かい。
こうした休息日は岩本にとっていいリフレッシュになる。
やがて、目的の駐車場に着いた。
💜起こしてくれればよかったのに…
到着して早々、深澤が口をとがらせている。
💛ふっかがあんまり気持ちよさそうに寝てたから(笑)
そう笑って、何気なく深澤の頭を撫でる岩本。
照れる深澤。
岩本のいつも通りの優しい笑顔が嬉しい。
深澤は幸せを噛みしめている。
💜今日はじゃんじゃん乗るぞ
💛よし、行こう
二人は思う存分大好きな遊園地を楽しむ。
💜むちゃくちゃ楽しかったな!
💛ね、久しぶりだったしね
深澤も岩本も大喜びの帰りの車中。
いつもは泊りがけで来ているのだが、スケジュールの合間を縫って来たので今回は日帰りだ。
それが深澤には寂しい。
本当なら温泉にも入って、ホテルに泊まって、そうしたらもっとずっと岩本といられるのに。
岩本がふいに言った。
💛ふっか、また来ようよ
💜え?
💛今度は泊りがけで温泉も入ろう
💜………うん
岩本も全く同じことを考えていたことに深澤の胸が熱くなる。
そして、同時に苦しくもなる。
今日は本当に楽しすぎた。
幸せだった。
今日という日が終わってほしくない。
やばい……。
思いがけず涙が溢れる。
深澤は慌てて耐えようとする。
こんなことで泣いたら、岩本に変に思われてしまう。
深澤はキャップを深く被り直して、下を向いた。
💛ふっか?
💜……なんでもない。前見て運転してろ
我慢しようとしたが、堪え切れず深澤の声がわずかに震えた。
岩本に気づかれただろうか…?
💛ふっか、もしかして泣いてる?
💜…泣いてない
また声が震える。
💛嘘。なんで泣いてるんだよ。なんかあった?
💜泣いてねえってば。しつこい
岩本は黙ってしばらく運転していたが、前方にサービスエリアが見えると突然ハンドルを切った。
車は少しスピードを落としてそのままサービスエリアに入って行く。
💜おい……
そのまま駐車場の隅に急停車する。
急ブレーキで深澤の体が浮いた。
💜あぶねーだろ!
岩本の横顔は怒っているように見える。
滅多に感情的にはならない岩本だが、気になることがあると解決するまで一切ごまかされない。
そんな岩本の性格を深澤は熟知していた。
ここは車の中、逃げられない。
💜おい!照!!
💛ふっかさ、俺になんか隠し事してない?
💜してな……あっ!
岩本は深澤からキャップを取り上げた。
深澤の顔が丸見えになる。
💛俺のことちゃんと見て言って?
💜……なんもねーよ
深澤は答える。
岩本は納得しない。
💛話があるならちゃんと聞くから。なんか今感じ悪いよお前
カチンときた。
💜照だって
💛え?
💜照だってなべとのこと黙ってただろ
車内に重い沈黙が訪れた。
コメント
6件
ぬぐわあああぁぁぁ!! どうする岩本ー!!