テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ロンはナズナとはぐれないように必死に走った。ナズナはとても速く、少しでもペースを落とせば、一瞬で距離が離される。
「ぜえ……ぜえ……ちょっと…ちょっ、タンマ……」
ロンは地面に座り込んだ。ナズナがその言葉に気づき、言った。
「もうそんなに疲れてるの?!流石に体力が無さすぎるわよ!まだ5分しか走ってないじゃない!」
「その5分間の走るペースが速すぎるんだよ!普通の人間だったらあのペースだったら1分走るだけでもヘロヘロだよ…。」
「そんなわけないわ!たかが、50メートル5秒のペースじゃない!それにここから村まではだいぶ遠いの!日没までに戻らなきゃ……ここは危険な魔物で溢れちゃうから急がなきゃなの!」
「その50メートル5秒ペースはこっちの世界だとめっちゃすごいペースなんだよ…。それにまだ日没まで時間はあるでしょ?もう少しゆっくり行こうよ?」
「むぅ……なら50メートル6.5秒ペースにしてあげるわ…。」
「…あんまり変わってねぇ…。」
「ほら、行くわよ!ちゃんとついてきてね!」
ナズナがそういうと、再び走り出した。しかし今度はさっきよりもだいぶ遅く、50メートル10秒ペースほどの速さだった。ナズナなりの気遣いだった。
1時間ほど走っていただろうか。ロンの足は棒のようだった。ロンが顔を上げた視線の先には集落らしきものが見えた。もうすぐそこまできていた。
「ゼェ…あれがそう……?」
ナズナは答えた。
「うん、そうよ。あれがホロウシャのある【風原村】よ。ほら、もうすぐだから、バテてる暇なんかないわよ!」
ロンは必死に走った。その会話から3分くらいして、カザバラ村についた。
「ゼェ…ゼェ…ついたぁ……。」
集落はとても幻想的な空間だった。家は皆、中央にある巨大な木にくっつくように建っていた。集落とは言えないほどの、大きな草むらの中の都会だった。
「あの木が居住区なの!高いところからの景色は怖いけど、綺麗なんだよ!木の下では人々が行き交ってて、すごい活発なんだ!」
ナズナが自慢げに話した。
集落の入り口から中に入るとナズナがたくさんの人に囲まれた。
男性「ナズナさん!おかえりなさい!」
女性「その隣の男は誰です?」
おばさん「もしかして……そういう事かしら?」
ナズナは焦って答えた。
「そういう事じゃないわよ!この人はもしかしたら召喚者かもしれないの!」
人々は顔を見合わせた。その中の老爺が声を上げた。
「世界が危機に晒されているのは確かだ……皆、”結晶”の話は聞いたことあるか?この世に元素の力を浸透させた話だ……。」
すると老爺は語り始める。
「まずこの世には11の力がある。火、水、自然、風、岩、氷、雷、闇、光、無……その力は昔に大結晶が何者かによって、崩された時、力の源”雫”がこの世に降り注ぎ、力をもたらしたというのだ。」
「では今なぜ世界が危険なのか…それは神々の暴走によるものだ…。11の神は世界の均衡を司る大結晶にそれぞれ元素の力を送って世界を保っていた。しかし大結晶が崩れたいま、神々の力を送る元がなくなり、その力が神々に溜まり、力の制御ができなくなってしまった。」
「神々はこの世界の各所にある祠に宿り、その力をなんとか抑えようとしているのだ…しかし、第三者によって無力化しない限り、力の暴走は止められん。そこで神々は別世界から才のあるものを呼び出すと聞いた……それが召喚者なのだ……。すまない、長々と話してしまった。」
老爺は人混みの中に消えていった。
「…とにかく、この男はそういう人らしいのよ!よくわかんなかったけど!」
男性「だったら、村長に話を通してみてはいかがですか?あの人なら何かわかるかもしれないですよ?」
「確かにいいアイデアね!じゃ、みんなばいばーい!ほら、ロン!行くわよ!」
ナズナは巨大樹の居住区へと走っていってしまった。
「あっ、ちょっと待ってくれよ〜!まだ全然休憩できてないよ〜!」
ロンもその後を必死に追いかけた。
……人混みのはずれで、ロンとナズナの様子を監視するように見るものがいた。額には、十一星の紋様が刻まれている。フードを深く被り、顔を見せないようにしていた。
「召喚者……か。」
ロンたちは居住区の中央部、いわば巨大樹の中心、長老の家へと足を運ぶ。ナズナがノックをして、長老を訪ねる。
「コンコンコン」
「……入ってよいぞ。」
「失礼します」
ナズナが扉を開けて中に入る。ロンも続いて入った。中には、眉間に皺を寄せ、顎には白い髭を生やした、威厳ある長老がいた。
「長老、お時間宜しいですか?もしよろしければ、お話をさせていただきたく。」
「…時間はある。いいぞ。」
「……して、話とはなんだ?」
「この男について話をしにまいりました。」
「この男……か。」
長老はロンを見た。それも検査するように見据えていた。
「……ナズナ。……もしかしてこの男……!お前の男か〜?? 」
長老はナズナをいじるように問う。そこには威厳のない長老がいた。
「ちょっ……やめてくださいよー!そんなんじゃないですってー!」
ロンはそのやりとりを見て、困惑した。長老とこの少女のやりとりはまるで先生にいじられる女子高生のようなものだった。
「そういうことではなくてですね、この男がもしかしたら、召喚者なのかもしれませんという話なんです。」
長老は威厳ある顔に戻った。瞳の奥はとても柔らかい光が宿っていた。
「召喚者…か。確かに今は神々の暴走により、世界の崩壊が進んでいる。この時期に来るのはおかしくないな。」
「この男、ロンが言うには、こことは別世界で突然できた穴から、落っこちてここにやってきたといいます。その証拠として、彼の服装は少し珍しく、ズボンも落下時に破れたとのことです。 」
ナズナがそう説明すると、長老は言った。
「ならば、わしが見てみよう。そなたに魔力が感じられなければ、別世界の人間ということだ。この世界の人間は誰しも体に魔力を宿すからな。」
長老がそう言って、ロンを再び見据える。今度は瞳が紫に輝いていた。
しばらくして、長老は目を瞑り、言った。
「ナズナの言う通りだ。どうやらそなたは召喚者だ。全くと言っていいほど魔力を感じられなかった。……ただ、別の力が感じられた。その力は社畜力だったかな? 」
ロンはそれを聞いて、向こうの世界の記憶がフラッシュバックする。ブラック企業に入ってしまい、残業三昧の毎日、上司に押し付けられた書類の山、毎日日を跨いで家まで帰る日々、それだけで吐き気がしそうだった。
「勤勉なのはいいことだ。ロンよ。そなたは確実に召喚者だ。……だが、魔力がないと戦えん。そこでそなたにわしの魔力核を少し分けよう。これは体に取り込まれれば、魔力を体に宿すことができる。とりあえず、無の魔力核を渡そう。」
するとロンの胸元が白く光った。光が収まると、ロンは今までにない力を感じることになった。
「とりあえず、好きなだけここに滞在するといい、準備ができたらこの世界を救う旅に出るといい、世界各地にある祠をまわり、神々を抑えること。頼んだぞ。旅に出ても、ここに戻ってきてもいいからな?」
長老はそう告げた。最後の言葉はたまには顔を見せろと遠回しに言っていた。
「では、これで私たちは失礼します。ほら、ロン!次は私たちのギルド、ホロウシャまで案内するわ!」
長老の家を後にし、ナズナは走っていってしまう。ロンはその後を急いでついていった。ロンはこれから始まる壮大な旅に少し不安が生まれたのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!