コユキが視線を止めた先には、真っ白なキトンにサンダル履き、頭に月桂樹の冠を載せた白人の可愛らしい美少年、大体十四、五歳の少年がこちらを向いて立っていた。
狂信者ハミルカルが少年の影に身を隠すようにしている所を見ると、この美少年がバアルなのだと容易に想像がつく。
コユキは心中で思うのであった。
――――中々の魔力、いいえ聖魔力量だわね、にしてもアフリカ人の神様だって話だったけど、見た目はまんま地中海地方なのね? ああ、そうか、北アフリカのフェニキア人だったわね、ハンニバル君たちと同じって事か…… ナガチカみたいな黒い髪と瞳が至高とかって思っていたけど…… 悪くないじゃないのぉ! 予定通り、ヒーヒー言わせてやりたくなっちゃうじゃないのぉ! ヌフフフ、ヌッフッフッフッフ~ン ※下品
下品なコユキに対しても気持ち悪くなかったのか、それともこの兄弟特有の性質、ガッツに溢れる我慢強さかは分からなかったが、バアルであろう美少年はニマニマしているおばさんに話し掛けたのであった。
「へぇ~、面白い道具を持っているみたいだね~、人間だよね? 随分大きいみたいだけど…… ここまで辿り着いた勇者とかなんとか言ってた人間で、視覚阻害領域を解除しなきゃならなかったのはおばさん達が初めてだよ~、でもね、もうこっちの目的は達したと思うよ、ハハっ! 君たちがここまで辿り着く事を可能にした一番の功労者、脳筋で馬鹿すぎる僕の弟、アスタロトは戦力外になっちゃってるよねぇ~、どうするのおばさん? もう逃げられないんだからね! きゃははははっ!」
功労者?
ここ迄の事を考えるとアスタロトはあんまり役に立っていなかった気がするが……
部下は優秀そうだったが、はて?
ヒュドラ戦なんかではむしろ邪魔していた気もするし……
そんな風に思いつつ首を傾げるコユキの横には、コユキから受けた折檻(せっかん)から復活を果たした善悪が並び立ち、堂々とした声でバアル少年に告げるのであった。
「バアル君! 我輩達は君を迎えに来たのでござるよっ! 何だっけ、ああ、そうそう、『静寂と秘匿を以って分かれ道を覆い隠す御方』達に言われたからね、君を現世(うつしよ)に連れ出す為にここまでやって来たのでござる! 戦う必要なんか無いのでござるよ! 分かるでしょ? 分からないの? って馬鹿なの? はあ、何だ馬鹿か、がっかりでござるよ、知性が感じられないからねっ!! でござるよぉ!」
うん、一言も二言も多いよね、案の定バアルの後ろに隠れていたハミルカルの叫びが響いた。
「バアル様、アイツ言いましたよ! 馬鹿だって! がっかりだって! バアル様の知性が感じられないですって! んまあ恐ろしい! 何てことでしょうっ! これは、神をも恐れぬ暴言ですよぉ! ねえ、どうします? どう、どう、今どんな気持ちぃ? ですっ!」
興奮気味に煽る(あおる)ハミルカルの言葉には何も返さずに、バアルはコユキから善悪に視線を移して声を掛けた。
「へえ…… あの爺(ジジイ)達の存在を知っているのかい? やけに魔力が多い人間風情が? ん、いや…… それって聖魔力だよね? 隣のおばさん、女の人、か? だよね? も同じように聖魔力を持っているね? ってか異常な量、だね…… 君達何なの? 只の聖女と聖戦士じゃないのは分かるけど…… 僕の名を冠するエール(天使)かな? ねぇ、君達って天使、隕石の化身なのかい?」
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