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こんにちは!こうちゃです。
第5話になります。 注意事項は第1話をご覧下さい!
番外編ということで、2人の過去のお話とか、ちょっぴり弱った🇬🇧とか、世話焼きの🇫🇷とかが出てきます。個人的に学パロ設定が大好きなので、楽しみながら書きました!ぜひ皆さんにも楽しんで貰えたら嬉しいです✨️
あの日のことは今でもよく覚えている。
ロンドンにしては珍しい晴天だった。ズキズキと痛みを主張する頬を抑えながら、止まらない涙を必死に拭って耐えていたと思う。
「…Qu’est-ce qui se passe ?」
まるで鈴のような声が聞こえて、驚いて顔を上げる。目の前にいっぱいに広がったのは、黄金の髪と青空を閉じ込めたような瞳を持った天使だった。あまりの衝撃に動けないでいると、天使は不安げに唇を震わせて英語を紡いだ。
「…Ah…what…happened?」
たどたどしく告げられた英語にIt’s nothing.と答えると、天使は通じたことに喜んで顔をほころばせた。
「そっか、なら良かった!ね、名前なんてゆーの?」
「……アーサー…」
「ふーん、アーサーね!俺はフランシス。フランスから引っ越してきたんだ」
俺の涙の理由には深く触れずに、フランシスは会話を続ける。
「てかお前、変な眉毛だなっ!」
……天使なんて評した自分を殴りたい。
「…おっ…お前こそ…!」
なにか反論してやりたかったが、今ならともかく昔の髭の生えてないフランシスは非の打ち所がなく、悪口の1つも出てきやしなかった。
「…お前こそ、なんだよ?」
ニヨニヨと気色悪い笑みを浮かべるフランシスに、何も言えないまま悔しさに肩を震わせるしか為す術がなかった。
フランシスが男で、隣の家に引っ越してきたと知ったのはこれからだいぶ後のことである。
坊ちゃんと初めて出会ったのは俺が10歳、坊ちゃんが7歳の時だった。両親は荷解きに忙しく、退屈していた俺は不貞腐れながら公園を訪れた。そこら辺をぶらぶら歩いていると、小さく押し殺すような泣き声が聞こえてきた。泣き声の元を辿ると、小さな男の子が必死に涙を拭っているのが見えて…気づけば声をかけていた。泣き腫らした瞳に、異様に赤く膨らんだ右頬、さらに握ると折れてしまいそうな細い腕を見てしまったらほっとけるわけないのだ。
「これがエクレアで…こっちはマドレーヌ。で、これはガトー・オ・ヨーグルトっていうんだよ」
母に頼んで余分に作って貰ったお菓子を、バスケットいっぱいに入れて持って行った時の坊ちゃんの顔は、それはそれはキラキラと輝いていた。
「これ…食べて、いいのか…?」
「うん、どうぞ」
坊ちゃんは待ち切れないというふうにエクレアに大きな口でかぶりついたあと、本当に幸せそうな顔で笑ったのだ。こんなに喜んでもらえるなんて、エクレアも本望だろう。
「美味しい?」
くすくす笑いながらそう尋ねると、急に恥ずかしくなったのか真っ赤な顔を背けて「まあまあだな」と答えた。最初の頃はこれにムッとしてしまったけれど、これがこいつなりの最上級の褒め言葉であると気づいてからはこの言葉が愛おしくて仕方がない。もし俺が作ってきたお菓子を食べたらこの子はどんな反応をするのだろう…?そんな疑問を抱いては、母にお菓子の作り方を教えてくれとせがんだ。料理と自分の性格の相性が良かったのもあり、俺の料理の腕は今では母親を驚かせる程だ。特に坊ちゃんがうちに来る時はどれだけ疲れていようが手間は惜しまないし、いつもよりちょっと良い材料を使ってみたりしている。その甲斐あってか、早生まれと栄養失調のダブルコンボでやせ細っていたアーサーの体は、徐々に標準に近づいていっている。最近はストレス以外で体調を崩すこともだいぶ減ったし、体調を崩した時も俺のことをなんだかんだ頼ってくれていると思う。つまり何が言いたいかというと、アーサーとの関係は順調に進んでいるはずだったのだ。そう、少し前までは。
「……はああぁ…」
ため息をつきながら机につっ伏すと、トーニョが面白そうに笑って俺をつつく。
「なんや、でっかいため息やなぁ」
「…トーニョ…俺…坊ちゃんに嫌われたかも…」
「え、坊ちゃんってあの可愛げのない弟やろ?」
「いや弟ではないんだけど…まあそんなような感じ…」
以前坊ちゃんが体調を崩した時、トーニョとギルとの約束をぶっちしてしまったことがある。さすがにあれは申し訳なかったし、今後もそうなる可能性があるかもだから、坊ちゃんのことは2人には話しておいたのだ。
「フランシス、お前弟に嫌われたのか!?」
中等部に弟を持つギルが耐えられないというふうに声を上げる。
「それがさぁ…普段なら週に3、4日くらいうちに呼んでご飯食べさせてるんだけど、今週はなぜだか全部断られちゃって…」
「ふーん…忙しいんちゃう?」
「でも…この時期は生徒会の仕事ほぼ無いはずだし…」
「友達と食ってるとかじゃね?」
「坊ちゃんご飯一緒に食べに行くような友達いないよ」
「ほなフランのこと嫌いになったんやわ」
「ドンマイだぜ!」
やけに明るい声で慰めてくる2人にそういえばこいつらは薄情なやつだったと思い出す。
「あのねぇ!お前らは俺がどれだけ苦労してあの頑固者を懐柔したか全然わかってない!」
鈍感で頑固で孤独になりたがる癖に、寂しがり屋で泣き虫で脆い。そんな子に人に頼るということを教えるのがどれだけ大変だったか、思い出すだけで頭痛がする。苦労した日々を思い返していると、トーニョがうーんと唸った後に俺をビシッと指さした。
「…逆にフランは何でそこまであいつの世話しとんの? 」
「そ…れは……その…」
言われてみれば、どうして俺はこんなに世話を焼いているんだろう。感謝の言葉もまともに言えないような意地っ張りを、どうして邪険にできないのだろうか。言葉に詰まってしまった俺の肩に、ギルがポンッと手を置く。
「ま、一旦距離置いてみるのも手だぜ!」
「そうそう!今週はオフやと思ってパーッと遊びに行こや!」
2人から肩を抱かれて、そういえばこんなに放課後が暇になるのは久しぶりだなと思い出す。
「…そだね!遊び行こ!」
今週はたまたま予定が合わなかったということも、たまにはあるだろう。そう結論づけたことを後悔するのはすぐ後のことだった。