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#山中柔太朗
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side Jinto Yoshida
「ういーっす! みんなおはようっ!」
朝の八時半。
重い扉を勢いよく開けて入ってきた夜勤明けの勇斗は、毎度の通り白衣の袖をぐっと捲り上げ、眩しいほどの笑顔で手を振った。
昨夜の当直はかなり酷かった。
というのも、深夜一時、隣市で列車脱線事故が起きた。
事故現場近くの災害拠点病院は一瞬で軽症から重症までの負傷者で溢れ返り、完全にキャパを超えてパンク。
行き場を失った第二次・第三次の搬送車両が、高速を飛ばしてこの汐見総合病院へと次々と雪崩れ込んできたのだ。
救急外来のロータリーにはサイレンの赤色灯が途切れず、廊下まで簡易ベッドが並ぶ大混雑。
もちろんウチの病院の当直外の医者たちも一部駆り出されるカオスな状況になっていたらしい。
…で、一晩中救急車のごった返す現場で、ほとんど寝ずに動き回っていた一人。
それなのに、疲労の色どころか肌のツヤまで良さそうなピンピンしたテンションである。
「うわ、はやちゃん当直明けやろ!? なんでそんな元気なん!?」
舜太が目を丸くすると、勇斗はガハハと笑いながら自分の椅子にドカッと腰掛けた。
「いや〜、昨日の夜マジで怒涛だったわ! でも救急の患者さんみんな無事に処置できてさ、なんか逆にゾーン入って目が冴えてんだよね!」
そのタフすぎる熱血ぶりに、隣のデスクでカルテを入力していた俺は、ゆっくりとキーボードから手を離し、心底重い溜息をついた。
「……なんで当直明けでそんなにテンション高いの。見てるこっちが疲れるんだけど」
「なんだよ仁人! 相変わらず冷たいなぁ! 俺が元気でいてくれた方が助かるだろ?」
「体力が有り余ってるなら、昨日の当直のカルテさっさと書いてよ。ポエム多すぎ」
「ポエムじゃない! 患者さんの感情の記録!」
バチバチと言い争うふたりを、遠くから見ていた太智と柔太朗が感心したように呟く。
「はやちゃん、ホント体力バケモノでだよね」
「ほんとな。吉田先生のほうが当直明けみたいな顔しとるわ」
太智のツッコミに、柔太朗がクスッと笑った。
「…はい、これ」
言い合いを続けていた勇斗のデスクに、無造作に缶コーヒーを差し出した。
「ん? 仁人、これなに?」
「別に。ゾーンに入ってるとか言いつつ、どうせ昼過ぎに一気にガタが来るんでしょ。カフェイン入れてそのまま今日一日乗り切りなよ」
缶コーヒーは、勇斗がいつも売店で買っている微糖のもの。
勇斗は缶を受け取ると、ニシシと嬉しそうに八重歯を覗かせた。
別に、優しさとかではない。ただでさえ二人しかいない医者が機能しないと困る。
「なんだよ仁人〜! 俺の好きなやつ覚えててくれたの? 優し〜!」
「……うるさいな。売店で適当に買ってきただけ。勘違いすんなよ」
「またまた〜! 昨日の夜も、俺が救急外来で問診書いてる時、仁人わざわざ様子見に来てくれたもんな!」
「いや、俺も緊急の連絡入ったから来ただけ。 勇斗のことなんか見てない」
「はいはい、そういうことにしといてあげるから!」
反論する俺に、勇斗はガッツリ肩を組もうとする。
「怖い怖い! 暑苦しっ!」
「あはは! 吉田先生わかりやすすぎ〜!」
「じんちゃん、ツンデレやなぁ!」
俺がファイルで必死に防ぐ横で、太智が大爆笑し、舜太も楽しそうに笑う。
これのどこがツンデレなんだよ。
急に肩組まれそうになったらそりゃビビるでしょ。
「太ちゃん声でかい。じんちゃんも素直になりなって」
柔太朗がお茶を並べると、勇斗は缶コーヒーをプシュッと開けて一気に飲み干した。
いや、とんだ勘違い野郎たちじゃん。
「よしっ! 仁人の優しさもチャージしたし、今日の外来もこのまま頑張るぞー!」
「だから優しさじゃないって……本当にタフすぎ」
呆れ果てながらも、俺の口元には隠しきれない小さな苦笑いが浮かんでいた。
コメント
1件
はやちゃんの体力バケモノっぷりすごい!笑 でも缶コーヒー渡す仁人くん、絶対ツンデレじゃん😭「優しさじゃない」って言いつつ口元の苦笑い隠しきれてないの最高…! 周りにバレバレなのも萌える〜! 徹夜明けのカオス描写もリアルで、ふたりの距離感がじわじわ縮まってる感じが伝わってきてニヤニヤが止まらなかったです💕