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「――てぇわけだ! オレのような討伐者の手にかかることを光栄に思うことだな!」
リュグナーと名乗った自称おっさんの長話がようやく終わった。話によると、ザーム共和国ではランクが高い者にデバフ効果付きの武器が支給されるとのこと。
奴らのほとんどがAランク程度で、しかも腐るほどいるようだ。武器はレイウルムから買った武器で、細工して持たせているということらしい。
魔導士だけは別扱いらしく、魔導士は実力主義で精鋭しかいない――というわりには大した強さを感じられないわけだが。
「つまり、あんたも雇われの傭兵ってことだな?」
「まぁな。ザーム共和国出身なんて奴は見た事ねえぜ! こっちとしちゃあ、報酬さえもらえりゃあいいんだ」
「……長々と内情を話してくれてすまなかったな。おかげで何となく分かった」
「よぉーし、そんじゃあそろそろ覚悟しとけよ? 魔術師には悪いが、これも仕事だ」
魔術師と名乗った覚えは無いが一部で伝わっているようだ。むしろ武器だけで攻撃してくる相手の方がやりやすい。
「あぁ、いつでもかかって来て構わない。どうせ無駄だろうから」
魔法相手には相当な自信を持っているのだろうが、使わなくても余裕すぎる。ミルシェたちを念の為出口側に下がらせたのは杞憂かもしれない。
「ほざくな、ガキが!! これでも喰らえ!」
ミルシェに向けて短剣を投げてきた時と同様に、奴は手持ちの武器を投げつけてきている。攻撃タイプは投てきによるダメージ狙いで、近接戦闘はしてこない。
防御魔法を何も展開していないせいか、ただのナイフが単純に飛んでくるだけだ。
「どうよ? どんなに強固な防御魔法だろうがオレの武器をもってすれば――」
「どうって言われてもな……」
「な!? 防御魔法を破られればダメージが自然にいくんじゃないのか!?」
「そんなわけないだろ。おっさん、あんた騙されてるよ……」
そもそも防御魔法を展開していないわけだが。投てき攻撃してこられても、こっちもどうすればいいのか困る。
「ああ、くそっ! しょうがねえ、魔術師相手に近接戦闘なんて性に合わねえが勝負をつけねえとな。行くぞ!!」
一応律儀的なものは備わっていたらしい。
「ぬおおおおおお!!!」
短剣を投げつけるのをやめてリュグナー自身が突っ込んで来る。両手で短剣を持ち、ほぼ捨て身の体勢だ。地面すれすれにまで全身を屈め、低空飛行の如く一直線に駆けてくる。
こんな攻撃をしてくる敵は初めてだが……。
「これならどうだーー!! ぬおあああああ!」
「……まぁ、こんなもんだよな」
「なにぃぃぃ!? のわぁっ!?」
奴はおれの足元をめがけて短剣を突いてきた。しかし、攻撃はあっさりとはね返り奴は地面に倒れてしりもちをついた。武器そのものにデバフ効果があろうと、制限下でない限り近接物理ではほぼノーダメージになる。
それに、武器による攻撃は魔剣ルストにとってご飯にありつける時間に過ぎない。
「アックさま! 外の様子が気になりますわ! あたしたちは先に出ますわよ?」
「あうぅ~、アック様のご勇姿がぁぁ~」
悲しがるルティを引っ張って、ミルシェは外へ出て行った――とはいえ、こちらはすでに勝負が決しているんだが。
「討伐者だか何だか知らないが、そんなもんなのか? それとも何か秘策でも?」
「ふっ……ふっふっふ! てめぇがパッシブスキル持ちなのも聞いてんぜ? そんで、とことん甘ぇガキってこともな! 殺さずの戦いを繰り返してるらしいが、そんなんじゃいつまで経っても敵が減りはしねえ」
そういうつもりは無かったがミルシェたちもいなくなったことだ、別のやり方でこのおっさんを消すことにする。
「あ~あ、それにしても討伐相手が純粋な魔術師じゃない奴になるとはがっかりだぜ……」
「何? どういう意味だ?」
「その魔剣もどうせ命中が低いシロモノだろ? 見ただけで分かるぜ! 威力も何もねえ。魔法剣で多少マシになる程度だ。つまり、てめえは魔法剣に頼る野郎ってことだ!」
明らかに実力差があるのにもかかわらずリュグナーというおっさんは余裕を見せている。どうやら遺跡出口を気にしているようで、さっさと終わらせたいらしい。
「まぁ、間違ってないかもな。ところで、随分外を気にしているようだが?」
「さっきの水の防御魔法を使った女! アレを真っ先に討伐すりゃあ、報酬が上がっただろうからな! さっさとてめえをぶっ倒して外にいる女どもをやりてぇだけだ!」
ミルシェのことを言っているんだな。しかしこんな奴にやられるほどミルシェは弱くない――とはいえ、この男を逃してしまえば後々面倒なことになるのは明白。
「なるほど。要するに、今まで魔法を使う奴を確実に消してきたってわけか」
「ハハハッ! 特に女の冒険者は確実にな! 始末する時の悲鳴が何とも言えねえくらい快感なんでな!」
少しは話が出来る奴かと思っていたが、この男の所業は褒められたものじゃない。こういう輩には魔法を使って消すべきだろ。
「……最低な野郎だな」
「女で魔法をぶっ放す奴の強さなんざ、たかが知れてるからな! このオレが持つ”ハンティングソード”にかかれば、どんな奴も……ククッ、始末するのはやめられねえな」
こんな中途半端な奴には魔剣ルストで――とも思っていたが、あえて魔法で片付ける。デバフ効果の剣に自信を持っていて面倒なわけだし。
「ご自慢の剣は魔法効果を打ち消すんだったか?」
「――ったりめえだろ? どんな魔法がきても無駄だ! もっとも、てめえのような物理系の魔剣持ちに話したところで何の意味も……」
魔剣ルストに対し、物理攻撃しか出来ないと思われているようだ。確かに今までは敵の武器を吸収だけさせてきた。だが、フィーサと似た剣には違いないとなれば試してみる価値はある。
物は試し。そう思いながら魔剣ルストに対し、指をなぞらせて攻撃魔法系の魔法文字《ルーン》を与えてみた。
すると――リュグナーの眼前、鼻先数センチの距離に対して雷属性の衝撃が起きる。
「ぬおわっ!? な、何だ!? いま何が起こった……?」
「雷をあんたの正面に落とした。痺れさせたなら謝るが?」
「ハハッ! もしかして、魔法が使えんのか? 若干の焦げ臭さを感じたが、大した威力じゃねえな!」
「……本当にそう思うか?」
「てめえの半端な魔法なんざ、怖くもねえな」
魔剣がルーンに反応してくれたことが分かっただけで、こいつの始末の仕方が決まった。単純に魔法発動だけでも消すことは可能だが、やはり魔剣を使って消すことにする。
「――それじゃあ、半端な魔法を帯びた魔剣を喰らってもらっても構わないんだな?」
「ああ、いいとも! どうせさっきみたいに鼻先を焦がすだけの魔法だろ? そんなもんはいくらでも喰らってやるよ! バフの持続効果を保とうが、そんなのは無駄だからな」
魔剣ルストの使い方が何となく分かった。魔法をエンチャントさせて攻撃するフィーサとはまるで異なる仕様だ。魔石ガチャの時に見えるルーンをルストに与えると、それが顕現化する。その威力は神剣のフィーサと違い、禍々しさを相手に残す。
ルーンが発動したルストに斬られれば――とにかく、試しとしては最適な相手だ。
「ほれ、どうしたぁ~? てめえの半端な魔法力を付与させてこのオレを斬ってみな! すぐにデバフが発動するんだけどな!」
お試しで放った雷属性の威力ですっかり舐め切っている。こちらとしても好都合だ。
「――それなら、遠慮なく」
遠慮なく破滅系魔法を魔剣に与え、そのまま奴に振り下ろした。
「あっあああぁぁ……な、何!? て、てめぇ、何の……魔法を付与……さ――あがぁぁっ!?」
魔法が効かないことを謳っていたリュグナーは、避けることなく攻撃を手で受け止めた。確かにルストの命中は良くなかったが、その効果はすぐに表れた。
「《ディナイアル・エンド》だ。この魔剣に斬られたあんたはその存在を否定された。デバフ効果付きの剣を持っていようが、魔剣ルストには敵わない」
「――っあ、あぁぁ…………」
「……外に出たかったんだろ? 良かったな、異空間に出られて」