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王都といえば、王族がいる街だ。まさか、王族に売るつもりじゃないだろうな。 デックの予感は的中した。
商人は王城を目指していた。
ますます不安になったデックは、揺れる馬車の|幌《ほろ》から顔を出し、後ろをついてくる|召使《めしつかい》の男に聞く。「どうしてこんな遠くまで連れてきたのか」と。
男が言うには、この国にはもう、魔法を使う一族がいない。だから魔法を使う者を、喉から手が出るほどに欲しい。しかも身分が高い人ほど欲しがっている。最高位の王族に売れば一番|儲《もう》かる。きっとおまえは高値で売れる。そう得意げに話した。
しかし、ただの商人が、そう簡単に王城に入れるものなのかと思っていたが、すんなり入れた。幌の破れた穴から、商人が門番に何かを渡している様子が見えたから、そのおかげだろうか。
そして城の裏側で、デックは馬車から下ろされた。商人と護衛の男とデックは、四方を騎士に囲まれ、城ではなく城から離れた別棟に案内された。縛られた腕が痛い。なのに商人が更に縄を引っ張って歩かせるものだから、思わず声がもれる。
「いた…」
「うるさい。静かにしろ」
商人に睨まれて、デックは俯く。
デックは気が強い性格なのだが、まだ子供だ。突然攫われ遠い隣国に連れてこられ、今まさに売られようとしている。ずっと我慢してきたが、心が|挫《くじ》けて泣きそうだった。
建物を入ってすぐの両脇に、騎士が二人いた。中は広い空間が広がっており、正面奥に階段がある。その階段の前に、騎士とは違う高そうな衣装を着た四人の男が立っていた。
デックはその内の一人に目が釘付けになる。三人は茶色の髪に青い目や緑の目なのだが、その男は青灰色の髪に黄色の目をしていたのだ。長身だが、他の三人よりは少し低い。そしてスラリと細く、一瞬女の人かと思った。しかし「子供を縛るとは野蛮な…」と商人に向かって吐き捨てた言葉で、男だとわかった。
商人は、四人に対して必死で説明をした。この子供は魔法を使う一族の者で、とても希少な存在だ。この世界に数人いるかどうかの人間、この者を従えさせれば世界を手中に収めることができる、と。
商人は、四人の前で、デックに魔法を使うよう命じた。だがデックは、無言で一点を見つめて動かない。
商人は護衛の男に言って、縄を外させた。それでもデックは立ったまま動かない。するといきなり左頬に衝撃を受けて倒れた。キレた商人が殴ったのだ。「早く魔法を使え!」だの「俺が見た時のように物を動かせ!」だのと怒鳴っている。それでも動かないデックを、今度は蹴りあげた。