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人がいなくなった部屋は、どうしてこんなに静かなんだろう。


いや、違う。ただ静かなだけじゃない。


それは、まるで世界から色が失われたかのような無機質な静寂だった。


耳鳴りがするほどに澄み切った空気は肌を刺すような冷たさを帯びていて


まるで音も、光も、そして俺の感情までもが、すべて凍りついてしまったかのようだった。


部屋の隅々まで染み渡るその冷気は、俺の心臓まで凍らせてしまいそうで、思わず両腕で体を抱きしめた。


俺の名前は杠葉 柊


両親が自決して亡くなったと聞かされたのはほんの数時間前のこと。


親戚の顔がずらりと並んだ葬式は、少し不気味だった。


誰も泣いていなかった。


悲しみの涙どころか、感情のひとかけらも見当たらない。


皆、俺をどこに預けるか、その一点にだけ意識を集中しているのが、痛いほどに伝わってきた。


「高校生にもなってるし、施設でいいんじゃないか」


「あと2年で成人なんだし、誰かが責任持たなくても」


大人たちはボソボソと耳打ちし合い、その冷たい視線と、計算高い目がそう言っていた。


まるで厄介な荷物をどう処分するかを相談しているかのように。


俺の存在が、彼らにとってただの負担でしかないことが、嫌というほど分かった。


無理だ。


俺、知らない場所で知らない人と暮らすなんて無理だよ。


そう思ったとき、自然に頭に浮かんだのが晋也さんだった。


たった一人だけ、子どもの頃からずっと変わらず優しくしてくれた、東雲 晋也さん。


俺がどんなにわがままを言っても、どんなに泣きじゃくっても、いつも笑顔で受け止めてくれた。


何年も会ってなかったのに、去年ぐらいに偶然会った時も俺の名前をちゃんと呼んで


あの優しい笑顔を見せてくれた。


その記憶が、凍りついた心に一筋の光を灯した。


俺は気づいたらスマホを握りしめ、メモに残していた晋也さんの住所を頼りに


1LDKのアパートメントの前に立っていた。


両手には、家を出る際に慌てて詰め込んだリュックと、重みに引きずるようなキャリーバッグ一つ。


スマホの画面に表示された住所と目の前のアパートの表札を見比べる。


間違いない、ここのはずだ。


冷たい夜風が頬を容赦なく刺す。


吐いた息が白く、はっきりと形になって夜空に溶けていく。


その白い息と一緒に、胸の中に渦巻く不安も少しずつ外に出ていくような気がした。


急に押しかけるなんて、迷惑かもしれない。


突然すぎるかもしれない。


こんな夜更けに、何の連絡もなしに押しかけるなんて、非常識だ。


だけど…行くあてもない俺にはここしかなかった。


他に頼れる場所も、人も、どこにも見当たらなかった。


意を決して、インターホンに指を伸ばし、震える指でボタンを押した。


「はーい」


数秒の沈黙のあと、スピーカーから聞き慣れた声が響いた。


心臓が跳ね上がる。


震える指でモニターを見上げると、そこに映っていたのは、スーツ姿の男。


ネクタイは少し緩められ、顔には疲労の色が滲んでいたけれど


その人は間違いなく俺の従兄弟、晋也さんだった。


「…し、柊?!こんな時間にどうしたんだよ…?」


モニター越しの晋也さんの声には、驚きと、そして少しの困惑が混じっていた。


「晋也さん、夜遅くにごめん」


俺の声は、思った以上に震えていた。


噛みそうになるのを必死に抑え、言葉を紡ぐ。


「晋也さんの耳にも入ってるかもしれないけど、俺の親、亡くなって…親戚のとこ、どこも引き取ってくれそうになくて、施設行きになりそうで……でも、俺……嫌で」


小さく息を吸い込み、途切れそうになる声を絞り出して、言い切った。


「だから、俺…俺のこと晋也さん家に住まわせて欲しくて…っ!迷惑だって、分かってるけど…住み込みで料理でも掃除でも洗濯でもするから……!」


瞬間、沈黙が流れる


それはひどく長く感じられた。


やはりこんな突然のお願い迷惑だったかもしれない。


こんな風に突然押しかけるなんて、子どもすぎたかも。


そう思った瞬間


ガチャリと音を立てて、目の前の扉が開かれた。


「とりあえず入っておいで。寒いだろ」


晋也さんはいつもの優しい声でそう言った。


言われるままに家に上がらせてもらうと、すぐに温かいリビングへと通された。


暖房が効いているのか、外の冷気とはまるで違う


じんわりとした温かさが体を包み込む。


ソファに座るよう促され、晋也さんはキッチンで温かい飲み物を用意してくれた。


湯気の立つマグカップを差し出され、両手で包み込むと、冷え切った指先にじんわりと熱が伝わった。


「あのさ、柊」


晋也さんは、俺の向かいのソファに座り、少しだけ真剣な表情で俺を見た。


「…なに…?」


「一緒に住むのは歓迎するよ。いや…ご飯も掃除もありがたいけど、それよりも……」


少し間を置いて、また続ける。


「ほら、柊の両親…昔から良い親とは言えなかったろ?だから、気持ちの整理まだ着いてないんじゃないかなって心配でさ」


その言葉に、俺は思わず俯いた。


晋也さんは、俺の親のことをよく知っていた。


「……はは、大丈夫だよ、親父は二つの家庭まで持ってたくせにずっと酒飲んで俺に八つ当たりしてきて、結局アル中で死んだし」

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