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なんたろ
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第164話:予定納税(中間申告)の恐怖〜国税からのラブレター〜
「……うぅぅ、部屋が……部屋が自分の顔で狭い……」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で小さくなり、部屋の半分を占拠している段ボール箱の山を恨めしげに見つめていた。
調子に乗って2000個も大量発注してしまった『泣き叫ぶ社長のリアルアクリルスタンド』。
現金60万円が一瞬で消え去った挙句、「棚卸資産(在庫)」として扱われ、1円も節税にならないという税務の罠にハメられた余波が、未だに四畳半を圧迫していた。
「だ、だが大丈夫だ……! 本は重版出来だし、コミカライズも決まった! もうすぐ口座に怒涛の印税が振り込まれるんだ……! 現金さえ入ってくれば、こんな在庫の山なんて……!」
俺が自分に言い聞かせるように、手に持った冷めた玄米おにぎりをかじり、冷えた麦茶で流し込んだ、その時だった。
『――ピンポーン』
不吉な音を立てて、四畳半のドアホンが鳴り響いた。
「ひっ……! 宅配業者か!? また何かグッズが届いたのか!?」
『違います、ルシフェル様』
ディスコードの向こうから、我が社の鉄面皮経理・結愛(ゆあ)の絶対ゼロ度の声が届く。
『郵便受けに、国税庁……いいえ、帯広税務署からの公的文書が投函されました。内容を確認してください』
「ぜ、税務署ぉぉぉぉぉっ!?」
俺は悲鳴をあげながら玄関へ飛び出し、ポストから一通の封筒を引っ張り出した。
白地に赤と黒の厳重なフォントで印字された、国税からの「ラブレター」。
震える手で封を破り、中の用紙を開いた俺の目が、見開かれたまま硬直した。
『予定納税額通知書 兼 納付書』
そこには、公務員の初任給を軽く吹き飛ばすような、恐ろしい金額と納付期限がはっきりと印字されていた。
「な……なんだよこれ……!? 納付期限:〇月〇日まで……!? 払う金額……〇〇万円……!?」
俺は頭を抱えて四畳半へ転がり込み、PCの画面に向かって叫んだ。
「おかしいだろ結愛!! 俺は今年度の確定申告なんてまだやってねえぞ!? なんで確定申告もしてないのに、税務署から税金の請求書が届くんだよォォォ!!」
『正当な行政手続きです、ルシフェル様』
結愛がウェブカメラの向こうで、特大の呆れ顔で冷たく言い放った。
『それが、日本の税制における最も恐ろしい集金システムの一つ……【予定納税(中間申告)】です』
「よ、予定納税ぇぇぇぇ!?」
俺がパニックを起こしていると、AIアシスタントのジェミニ先生が無機質な合成音で補足を入れた。
『解説いたします、ルシフェルさん。予定納税とは、前年(または前期)の申告納税額が一定基準(個人は15万円、法人は国税20万円)を超えた事業者に対し、国税庁が「お前、今年も同じくらい儲かるだろ? 来年の確定申告を待たずに、あらかじめ半分を前払いしろ」と強制徴収してくる制度です』
「前払いぃぃぃぃぃっ!?」
俺の悲鳴が四畳半の壁を振動させた。
「正気かよ国税庁!! まだ今年の利益が確定してねえんだぞ!? もし後半で赤字になったらどうすんだよ!!」
『赤字になった場合は、翌年の確定申告後に還付(返金)手続きが行われます』
ジェミニ先生が容赦なく事実を告げる。
『ただし、還付されるのは半年以上も先の話です。現時点において、貴方は通知された金額を【指定された期限内に現金で納付】しなければなりません』
「カツアゲだ!! 国家権力による完全な先払いカツアゲじゃねえか!!」
俺は三万円のゲーミングチェアから転げ落ち、畳をバンバンと叩いた。
「まだ印税の現金が手元に入りきってねえのに! なんで『儲かってる想定』で先に金をむしり取られなきゃなんないんだよォォ!!」
『お気持ちは理解できますが、支払いを拒否または遅延した場合、年14.6%という闇金顔負けの最高利率で『延滞税』が加算されます』
結愛が淡々とキーボードを叩きながら、地獄の追撃をかける。
『さらに滞納が続けば、会社の銀行口座、および実録本の印税口座が【差押え】の対象となります』
「差し押さえぇぇぇぇぇっ!?」
『はい。要するに、印税が入ろうが入るまいが、今すぐ現金を準備して税務署へ差し出さなければ、会社は即座に倒産・差押えの憂き目に遭うということです』
「あ……あぁ……っ」
俺の呼吸が浅くなり、視界がぐにゃりと歪み始めた。
重版出来の歓喜、コミカライズ決定の栄光。
その華やかな表舞台の裏で、国税庁という名の絶対的な集金機構が、確実かつ冷酷に俺の首元へ刃を突きつけていたのであった。
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第165話:四畳半の泡吹き先生〜稼ぐほど首が締まる謎〜
「……勝った。ついに、ついにこの時が来たんだ……!」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で、震える指でオンラインバンキングの画面を注視していた。
予定納税という名の国税庁からの恐怖の通知書が届いてから、数日後。
ついに、大手出版社K〇D〇K〇WAから、実録本の『初版印税』および『重版分の印税』が、一括で会社の指定口座へと着金したのだ!
画面に表示された口座残高の数字。
【 ¥ 3,450,000 - 】
「さ……三百四十五万円……ッ!!」
俺の口から、見たこともない数字に対する歓喜の悲鳴が漏れ出た。
「入ったぁぁぁぁぁぁ!! 百万円単位の現金が! 俺の会社の口座にドカンと入ったぞぉぉぉ!!」
俺は歓喜の涙を流しながら、机の上にあった一日一食の主食・冷めた玄米おにぎりを両手で天高く掲げた。
「見たか結愛! ジェミニ先生! 源泉徴収で10.21%引かれようが、これだけの現金があれば無敵だ!!」
俺は勝ち誇った顔で胸を張り、三万円のゲーミングチェアをグルグルと回転させた。
「これだけあれば、あのアクスタ制作費の60万円も、予定納税の先払い税金も余裕で支払える! 余った金で帯広の築浅マンションに引っ越して、毎日焼肉を食って暮らしてやるぜ!! This is a CASH!!」
しかし――
俺が人生の頂点に酔いしれていた、まさにその瞬間。
『……ルシフェル様。大変申し上げにくいのですが、現実の引き落としデータを実行いたしますね』
ディスコードの向こうから、結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが響いた。
「……え?」
『ジェミニ先生、本日の強制決済および税務引き落としのシミュレーションを一括実行してください』
『了解いたしました、結愛さん』
AIアシスタントのジェミニ先生が、無機質な合成音で淡々と読み上げを開始した。
『決済処理を開始します』
『1.アクスタ2000個の制作費(棚卸資産・未払分):600,000円 引き落とし完了』
『2.国税庁・予定納税(中間申告・前払い所得税):1,100,000円 引き落とし完了』
『3.都道府県税および市町村民税(中間納付):550,000円 引き落とし完了』
『4.来期の法人税・消費税見込み額の強制積立(税理士推奨):1,100,000円 振替完了』
『5.国際税務専門・税理士顧問料および着手金:100,000円 引き落とし完了』
『――以上の決済がすべて完了いたしました』
ピコン、ピコン、ピコン……。
画面の中で、口座残高の数値が、まるで狂ったスロットマシーンのように凄まじい勢いで目減りしていく。
345万円あったはずの数字が、一瞬で300万を切り、200万を割り、100万を突き破り――
【 現在の口座残高: ¥ 0 - 】
「………………は?」
俺の思考が、完全に停止した。
「は……? ゼロ……? ぜ、ゼロってなんだ……? 345万円あった俺の金は……どこへ消えたんだ……?」
『消えたのではありません、ルシフェル様』
結愛がウェブカメラの向こうで、冷酷な眼差しで画面を指差した。
『事前に発生していた負債(アクスタ制作費)の支払い、本日発生した予定納税(中間申告)の先払い、そして来期押し寄せてくる莫大な法人税・消費税の積立口座への移動。それらを処理した結果、手元に残る自由な現金(キャッシュ)が【ゼロ】になっただけです』
「な……なんでだよォォォォォォォっ!?」
四畳半のボロアパートに、俺の魂を絞り出すような悲鳴が轟いた。
「おかしいだろ!! 俺の本はベストセラーになったんだぞ!? 重版もかかって、コミカライズも決まって、300万円以上の印税が入ってきたんだぞ!?」
俺は畳の上に転げ落ち、頭を抱えて叫び続けた。
「なんで稼げば稼ぐほど! メディアミックスで儲かれば儲かるほど! 手元の現金がなくなっていくんだよォォォォ!!」
『それが……【黒字倒産(勘定合って銭足らず)】という名の構造的地獄です』
ジェミニ先生が、ホラー映画のナレーションのように低く無機質な声を響かせた。
『会計上の「利益」と、手元にある「現金(キャッシュ)」は全くの別物です。売上が上がれば上がるほど、税金の前払額(予定納税)が増加し、在庫(アクスタ)に現金が奪われ、運転資金が枯渇していく……』
『特に、急速に事業を拡大させた素人経営者が最も陥りやすい、資本主義の罠なのです』
「あばばばばばばばばばっ!!」
絶望の限界値を突破した俺の口から、白い泡がぶくぶくと吹き出し始めた。
「稼いでも……稼いでも……全部税金と在庫に消えていく……! 俺の白米は……俺の焼肉は……どこにあるんだよォォォ……!」
『あ。ルシフェルさんの口から大量の泡が噴出しました。脳の保護回路が完全にシャットダウンした模様です』
ジェミニ先生の実況が遠くに聞こえる。
四畳半の畳の上で、泡を吹きながらピクピクと痙攣する四十歳の底辺社長。
その周りを、2000個の「泡を吹いて泣き叫ぶ自分自身のアクリルスタンド」が、冷たく見下ろすように囲んでいた。
『SuperChat: $100.00 (WHY IS THE BOSS FOAMING AT THE MOUTH ON THE FLOOR? LMAO)(スパチャ100ドル:なんでボスが床で泡吹いて倒れてんだよ! 爆笑)』
『SuperChat: $50.00 (He earned 3 million yen and now he has 0 yen! Peak Tax Drama!)(スパチャ50ドル:300万稼いで手元0円! 最高の税金ドラマだな!)』
『SuperChat: $200.00 (Buy him some real meat! He is dying! LOL)(スパチャ200ドル:誰か肉を買ってやれ! 奴が死んじまうぞ! 笑)』
X(旧Twitter)では、今日も俺の無様な泡吹き姿が世界中へ拡散され、何もしない俺の口座に勝手にスパチャ(ドル)が振り込まれ続ける。
そしてそのドルの雨は、また来期、さらに巨大な【予定納税】となって俺の首を絞めに来るのだった。
「だ……誰か……俺を……ただのニートに戻してくれぇぇぇ……ッ」
帯広の四畳半に、限界を迎えた社長の虚ろな呟きが、虚しく吸い込まれていくのであった。
コメント
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ルシフェル社長またやってる〜!!😂💸 345万入ったと思ったらまさかの即ゼロ…「稼ぐほど首が締まる」ってこれほどのブラックジョークないよ!予定納税のカツアゲ感、最高にエグくて笑ったw でもアクスタ2000体に囲まれて泡吹いて倒れる社長の姿、なんだかんだ愛おしすぎるんだよなあ…😭✨ ゆうきさん、今回も腹筋崩壊コメディありがとうございます!でもお仕事大変そうだから無理しすぎないでね…?💕