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1 - 深夜のスタジオ、2人だけの時間

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2025年02月25日

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深夜のスタジオ、2人だけの時間



静まり返ったスタジオに、リズムを刻む靴音だけが響いていた。


壁にかかった時計の針は、すでに夜中の2時を指している。


鏡張りの広いスタジオは、昼間とは違ってひっそりと静まり返っていた。

さっきまで他のメンバーも一緒に練習していたはずなのに、今この空間に残っているのは俺とFUMIYAの2人だけだった。


スピーカーから流れる音楽はすでに止めてある。

けれど、俺の頭の中ではまだメロディーが鳴り続けていた。


——あと少し。もう少しだけ。


そう思いながら、俺は繰り返しステップを踏んだ。

体は疲れているはずなのに、振り付けの細かい部分が気になって仕方ない。


「……もう少し。ここ、やっぱり足の角度を変えたほうがいいかも」


汗を拭いながら、何度も同じ動きを確認する。

完璧を求めるのは、ただの自己満足ではない。

俺はこのグループのリーダーだから。

誰よりも振りを理解し、誰よりも納得していないと、メンバーに振り付けを任せられない。


(まだいける。もう少しだけ……)


そう自分に言い聞かせながら、もう一度体を動かそうとしたとき——


「ふみくん、もうこんな時間ですよ」


ふいに、FUMIYAの声が響いた。


俺は少し驚いて足を止める。

さっきまで黙って俺の動きを見ていたはずのFUMIYAが、腕を組んでこちらを見つめていた。


「そろそろ休んだほうが……」


その口調は優しかったが、どこか呆れたような響きも含まれていた。


「あと少しだけ。納得いくまでやりたい」


そう言って、再び踊ろうとする。


しかし、FUMIYAは俺の前に立つようにして、苦笑した。


「ふみくんって、ほんと真面目すぎますよ」


「……それ、褒めてる?」


「もちろん。でも、さすがに無理しすぎです」


俺が何か言い返す前に、FUMIYAはポケットをゴソゴソと探り始めた。


そして——


「……ほら、グミ食べてエネルギー補給してください!」


目の前に差し出されたのは、小さな開封済みの袋。

カラフルなグミが顔を覗かせていた。


「……グミ?」


「はい! これ、めっちゃ美味しいんですよ! ふみくんも食べてみてください」


俺は思わず、FUMIYAの顔を見た。

彼は、いたずらっぽい笑顔を浮かべながら袋を揺らしている。


(……こんな夜中にグミって)


正直、あまり気が進まなかった。

けれど、FUMIYAの視線が「ほら、食べてみてよ!」と言わんばかりにキラキラしていて、無下に断るのもなんだか気が引ける。


「……仕方ないな」


俺はしぶしぶ袋からひとつつまんで、口に放り込んだ。


噛むと、もちっとした弾力とともにフルーツの香りが広がる。


「……甘いな」


思わず、ぽつりと感想が漏れた。


「でしょ?」


FUMIYAは満足そうに笑い、俺の隣にちょこんと座った。


スタジオの床は冷たい。

でも、FUMIYAが横に座ると、少しだけその冷たさが和らぐ気がした。


「ふみくんがちゃんと休むまで、僕も一緒にいますからね」


その言葉に、俺は軽く眉をひそめる。


「……お前、明日も朝早いだろ」


「ふみくんも、ですよね?」


ぐっと言葉に詰まる。


「だから、もう今日は終わりにしましょう」


FUMIYAは袋からまたグミを取り出し、ぽいっと自分の口に入れた。


そして、俺の顔を見上げて、ふんわりと笑う。


「ちゃんと休まないと、明日もパフォーマンスできませんよ」


俺は思わず息をのんだ。


(……こいつ、たまにこういう顔するんだよな)


無邪気なのに、どこか俺のことを見透かしているような目。

笑っているのに、心配しているのが伝わってくる優しい表情。


なんとなく、胸がむず痒くなって、俺は視線を逸らした。


「……なら、もう少しだけ付き合ってもらおうかな」


俺がそう言うと、FUMIYAは「やった!」と嬉しそうに笑った。


何がそんなに嬉しいのか、よく分からない。


けれど、その笑顔を見ていると、俺の中の張り詰めていたものが少しだけ緩んでいくのが分かった。


手の中には、FUMIYAからもらったグミ。

口の中に残る、ほんのりとした甘さ。


そして、隣にはFUMIYA。


(……まあ、たまにはこういう時間も悪くないか)


ふっと小さく息をつき、俺はもう一度グミを口に放り込んだ。

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