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颯真と再会した翌日、彼は本当に手伝いに来てくれた。
古い本棚を運びながら、「ここ、懐かしいな」とつぶやく彼の声が、なんだか心地よかった。
私は、窓を開けて風を入れながら、押入れの中を整理していた。
祖母のアルバム、手編みのマフラー、古い日記帳。
そして――ひとつだけ、やけに新しい封筒が出てきた。
白くて、小さくて、宛名のない封筒。
けれどその文字は、確かに私の筆跡だった。
「未来の私へ」
声に出して読み上げたとたん、颯真がこちらを向いた。
「え、それ……君の?」
「うん……。でも覚えてない。全然」
そっと中を開くと、そこには高校生の自分が書いたような、拙いけどまっすぐな言葉が並んでいた。
「未来の私は、ちゃんと夢を追いかけてる?
絵本作家になりたいって、本気で言ってたの、忘れてない?
あと……好きな人のことも、まだ忘れてないと思う」
その一文を読んだとき、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
「……ねえ、颯真。あのときってさ」
「うん?」
「もし、私が“好き”って言ってたら……どうしてた?」
彼は、一瞬驚いたように私を見つめた。
けれど、すぐに目をそらして、笑った。
「たぶん――すごく嬉しかったと思う」
私の心臓が、ドクンと跳ねた。
風が、ふたりの間を吹き抜けた。
沈黙。でも、心は騒がしかった。
手紙は、それからも毎日、ひとつずつ見つかっていった。
どれも、過去の私が、未来の自分に向けて書いたもの。
けれど時折、手紙の中に颯真の名前が混じっていることに気づいた。
「文化祭のとき、私が描いた絵を、最初に褒めてくれたのは颯真くんだった」
「あの人と並んで歩く未来が、もしあったなら――それはきっと、しあわせな未来だと思う」
そんな手紙を、彼に見せることはできなかった。
でも、読めば読むほど、私の心は揺れていった。