テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
カラン。
最後の客が出ていく。
ドアのベルが鳴って、店内は静かになった。
エリオットは入口の鍵を閉める。
カチッ
振り返る。
店の中。
オーブンの灯りだけが少し残っている。
カウンターには――
チャンス。
肘をついて座っている。
ネクタイはまだ。
エリオットの手の中。
ぐい
「……」
チャンスが言う。
「閉めたのにまだやるのか」
エリオットは笑う。
「逃げないって言った」
「言った」
「でも癖」
チャンスは肩をすくめる。
「重症」
エリオットはカウンターの中から出てくる。
チャンスの隣に立つ。
少し近い距離。
「店、静かだね」
「いつもこんなもん」
エリオットは椅子を引いて座る。
隣。
ネクタイは指に巻いたまま。
外では車の音が遠くで聞こえる。
店の中はあたたかい。
エリオットが言う。
「チャンス」
「ん」
「追われてるんだよね」
チャンスは少しだけ笑う。
「まあ」
「怖くない?」
「慣れた」
エリオットは少し眉を寄せる。
そして。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少し前に引き寄せられる。
距離が近い。
「……」
エリオットは言う。
「慣れないでよ」
チャンスが眉を上げる。
「何に」
「死にそうなやつ」
店は静か。
エリオットの声は少し低い。
チャンスは少しだけエリオットを見る。
そして軽く笑う。
「大丈夫」
エリオットはネクタイを指でなぞる。
「信用していい?」
「どうだろうな」
エリオットは小さく息を吐く。
「ずるい」
チャンスは笑う。
「ギャンブラーだから」
エリオットはふっと笑う。
それから。
ネクタイをもう一度引く。
ぐい
今度はかなり近い。
チャンスの顔がすぐそこ。
「……」
エリオットは言う。
「チャンス」
「ん」
「逃げたくなったら」
少し間。
「ここ来ればいい」
チャンスは黙る。
エリオットはにこっと笑う。
「ピザ焼く」
「……」
「あと」
ネクタイを軽く揺らす。
「これ引っ張る」
チャンスが小さく笑う。
「それ目的だろ」
「半分」
二人はしばらく黙る。
夜のピザ屋。
外のネオン。
オーブンの余熱。
エリオットがぼそっと言う。
「チャンス」
「ん」
「今日」
「?」
「来てくれてよかった」
チャンスは少し視線を外す。
それから言う。
「……俺も」
エリオットが少し驚く。
チャンスは軽く笑う。
「ピザうまいし」
エリオットは笑った。
そしてまた。
ぐい
チャンスが言う。
「それ」
「ん?」
「ほんと離さないな」
エリオットはネクタイをくるくるしながら言う。
「離したら」
「?」
「どっか行きそう」
チャンスは数秒黙って。
それから小さく言う。
「今日は行かない」
エリオットはにこっと笑った。
夜のピザ屋。
ネクタイはまだ。
エリオットの手の中だった。