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(私を見ていたのは、いったい……誰だった?)
あの視線。
教室の、廊下の、スマホの向こうから。
それらすべては、もう“誰”のものとも言えなかった。
匿名の言葉。
目を合わせずに避けられる視線。
消されたはずの記憶。
茅野瑠海。
玲那。
村瀬。
椎名。
そして――“私自身”。
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登校した瞬間、空気が変わっていると感じた。
誰かが何かをしたわけじゃない。
ただ、**「私はもう、ここにいてはいけない存在」**になっていた。
誰も私を見ない。
なのに、誰もが私を意識している。
その矛盾が、胸をざらざらと削っていく。
(こんなにも静かで、こんなにも声がうるさい)
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昼休み、机の上に落ちていたプリント。
裏面に、鉛筆の筆圧が強すぎて破れかけている文字が残されていた。
「笑ってたよね、最後。
どうしてか、わかる?
わたし、全部奪われたのに――
まだ、笑えたんだ」
(……茅野)
私は、立ち上がっていた。
無意識に、足が動いていた。
走った先は、あの裏庭。
最初に玲那を孤立させたとき、
村瀬が壊れ始めたとき、
椎名が私を止めようとしたとき――
全部、この場所だった。
(私は――なんのために、感情を殺したの?)
「結惟」
背後から名前を呼ばれた。
振り返ると、そこに西園寺がいた。
変わらない笑み。変わらない距離感。
でも、今日の彼の声は、ほんの少しだけ、柔らかかった。
「君が最初に人を壊したとき。
“あの子”の目を、ちゃんと見た?」
私は、答えられなかった。
「君は、“人を壊す”ことでしか世界を感じられなかった。
でも今、君は初めて、“自分が壊れていく感覚”を知ったんだね」
「……うるさい」
「うるさいのは、君の中の声だよ。
もう、殺しきれない感情が暴れてるんだ」
私は、しゃがみ込んだ。
肩が震えていた。涙は出ないのに、心だけが悲鳴を上げていた。
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夜。
スマホに、未読のメッセージが届いた。
送り主は表示されていなかった。
開くと、1枚の画像。
茅野瑠海が、クラスの集合写真で笑っている写真だった。
ただひとつだけ、彼女の顔の上に、マジックで×が描かれていた。
(私が、やったの?
それとも……“誰か”がやったの?)
記憶が曖昧だった。
なのに、胸の中の何かが確かに言っていた。
「これは、自分が引き起こしたものだ」
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そしてその夜。
夢に茅野が出てきた。
まっすぐにこちらを見て言う。
「ねえ、ゆいちゃん。
あなたが一番壊したのは、わたしじゃないんだよ」
私は、怖くて聞き返せなかった。
「あなたが壊したのは――
あなた自身だよ」
そう言って、彼女はゆっくりと、笑った。
その笑顔は、優しくて、残酷で、
今の私では、もう真っ直ぐに見ることができなかった。