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「だいきさぁん! お待たせしましたぁ!」
「あ、危ない!」
神社の鳥居前。人混みの中、小走りで駆けてきたカレンちゃんがつまずきそうになり、俺は思わずその細い体を受け止めた。
本日、一月一日、元旦。
朝から気合を入れて馴染みの店で着付けてもらい、メイクまで完璧に仕上げてきたってのになんだよ。
待ち合わせ時間きっかりに、三人から「体調不良で行けない」とLINEが届いた。昨日三人で食べた年越しそばに当たり、揃ってお腹を下したらしい。
なんだよ、寂しいじゃん。俺も呼べよ。
一緒の年を越して、一緒にお腹下したかったよ……。
「うふふ、大丈夫ですぅ。他の方は、まだ来られてないんですかぁ?」
「あ、みんな体調崩して来られないって。どうする? 帰る?」
「うわぁ! 初詣に来たのにお参りもせず五秒で帰るなんて、はじめての経験ですぅ!」
カレンちゃんは、なぜか嬉しそうに声を弾ませている。
俺、苦手なんだよね。こういう「毎日ポジティブ超ハッピー!!」みたいな子。一緒にいるだけで、どっと疲れてしまう。
あぁ……いつきくんに会いたい。あの癒やしオーラに抱きしめられたい。
「……いや、マジで言ってるからね? カレンちゃんはりゅうせいが好きなのかな? だったら、もういつきくんと付き合ってるから。二人の関係を壊すような真似はやめた方がいいよ。りゅうせいは優しいから誰にでもいい顔しちゃうところがあるし、今日も断れなくて約束しちゃったんでしょ、きっと」
ほら、案の定、俺の言葉に何一つ返せない。
こういう子は自分が一番だと思い込んでいるから、はっきり言って誰かが現実を教えてあげなきゃいけないんだ。俺はそういう子の「教育係」だから。
「……ね? りゅうせいくん、優しいですよねぇ。私のわがまま聞いてくれて。……あ! だいきさん知ってます? お参りの作法って『ペコペコ・パンパン・ペコ』なんですよ?」
「……え、何? ペコペコパン?」
何を言っているんだ、この人は。
俺の渾身の説教を軽やかにスルーして、謎の宇宙語を喋り出した。
「とりあえず、せっかくですし、お参り行きませんかぁ? お着物、とっっっってもお似合いで素敵です!」
「え、あ……ありがとう」
そうだ。俺、今日はこの晴れ着のために、早起きして自分を磨き上げたんだ。
軽くメイクもしてもらったし、このまま帰るのは流石にもったいないな。
「あ! カメラ持ってきたんです! そのお着物、撮らせてください!」
「一眼レフ……?!」
彼女がデカい鞄から取り出したのは、鉄道写真でも撮るのかというくらい気合の入った機材だった。レンズを構える手つきも完全に「ガチ」のそれで、思わず吹き出してしまった。
「え! 最高です! やっぱり、だいきさんは笑顔が一番素敵です!」
シャキーン、と硬質なシャッター音が響く。
その独特なリズムと彼女の勢いに押されて、俺はもう一度、今度は声を上げて笑ってしまった。
「ん?」
ふふっと不思議そうに首を傾げて笑った彼女を見る。
「いや、不思議なシャッター音だなって」
「でしょ? このシャッター音にひと音惚れしちゃって」
「いや、一目惚れみたいに言うなよ」
「んふふふふっ」
――あ、もしかして今、同じこと思ったか?
ボケとツッコミが綺麗に決まって、妙に心地いい。いや、この子が今のツッコミの意味をわかって笑っているのかは、怪しいものだけど。
「あ! だいきさん、どおぞ、お先に歩いてください! わたし、良きタイミングでお写真撮りますので」
「え? ああ……」
いくら苦手なタイプとはいえ、女の子をただのカメラ係にするのは流石に申し訳ない。何かお礼を……そうだ、これなら女の子はみんな喜ぶはず。
「すみません、いちご飴ひとつください」
「はーい」
ヤンキーにしておくには勿体ないくらい綺麗なお姉さんが、一番大きないちごを選んでくれた。隣にあったデコレーション済みのりんご飴も可愛かったけど。
「ありがとうございます」
にこりと両手で渡してくれるお姉さん。この人が男の子だったら、間違いなく俺のドタイプだったのに。そんなことを思いながら、笑顔でそれを受け取った。
「うわぁ、今のすごくいい笑顔でしたねぇ? もしかして、あのお姉さん、お好きなタイプなんですかぁ?」
シャキーン、とまたあの変な音が鳴る。レンズを覗き込んだまま、カレンちゃんが喋りかけてきた。なんなの。そんなこと、どうでもよくない?
「ん、これ。第一宮まで距離あるから、食べながら行ったら?」
格好つけていちご飴を差し出しているのに、彼女は受け取ろうともせず、シャキーンシャキーンと音を鳴らし続ける。ちょっと、周りの人めっちゃ見てるんだけど。
「……私用の、いちご飴ですか?」
「そうだけど」
女の子ってチョロいよな。ちょっと優しくすれば、すぐ自分に気があると勘違いしてときめいちゃうんだから。結局、誰でもいいんだろう? 優しくてそれなりの男なら。
「……主役のりんご飴でなくて?」
「は? いちごの方が食べやすいだろ」
「えぇ~、でも写真的にはりんご飴でしたよねぇ、いまぁ~」
あからさまに不満そうな顔。……もういい、だったら俺が食う。
袋を外して口に入れようとした、その瞬間。
横から、ガブッ! と一口で掻っ攫われた。
「は?!」
「ん~! おいちい~、何本でもいけちゃう! おねぇさん、りんご飴二つくださぁ~い! 赤いのと、チョコのやつぅ」
「はぁ~い」
なんなの、お姉さんまでカレンちゃんにつられて語尾が伸びてるじゃん。ダメだって、全然似合ってないって!
「はい、だいきさん! 一緒に食べながらいきましょ? どっちがいいですかぁ?」
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萩原なちち