〜とある研究所〜
「お待ちしておりました、祖国様」
コツコツと薄暗い研究所の廊下に足音が響く。
「そうですか、」
祖国様、と呼ばれた青年はそう短く答えると足を進める。
「こちらになります祖国様、こちらのシステムは只今からの最終確認を終えれば完成となります」
「はぁ…やっとです、これでようやく私の、いえ██の悲願が叶います、」
青年がぽつりと呟いた言葉。その一部分が周りの音にかき消され聞こえなかった。
「そうでございますね、ようやく██様の悲願が叶われます」
「とても、喜ばしいことですね、」
何度聞いても聞こえない部分。おそらく誰かの名前なのだろうが情報が少なくそれが誰の名前なのかいまいち確証できない。
ビービービー!!!
その時研究所全体にけたたましい警告音が響き渡った。
「何事ですか!!」
青年がそう問えばさっきまで機械を操作していた少年が叫んだ。
「しすてむえらーです!」
しすてむえらー、ひらがなの発音で聞こえる声に青年は顔を顰めつつも言った。
「総員退避してください!この研究所はもう少しで崩壊します!早く外に!」
「待ってください!この研究所には努力の結晶と祖国様と██様の悲願が詰まって…!」
一人の女性研究員がそう言った。
「ここで死んではやり直しが効きません!だから早く!」
青年の言葉にあと押されたのか研究所の人達は次々に外へ避難した。
「はぁ、はぁっ、ここで最後…よかった、誰も居ない…」
崩壊が始まった研究所の中で青年は逃げ遅れた人がいないか見て回っていた、大切な我が子を誰1人死なせないために。
「私も早くここからでなければ…!」
来た道を引き返そうと青年が振り返った途端、胸に衝撃を感じた。
「……!?」
突然の出来事に何も反応できないまま青年はその場に倒れ伏した。混乱したまま胸に手を当てるとヌメっとした感覚と鉄の匂いを感じ取った。窓から差し込む月明かりに手をかざすと手は血にまみれていた。
「…あぐっ、!げほっ、ごほっ!」
撃たれた。そう理解した瞬間、胸に激痛が走り口から血を吐いた。
「(一体誰が、こんなことを…、)」
せめて犯人を見てやろうと後ろを振り向いた青年、彼が見たものは…
月明かりに照らされ、逆光になりシルエットしか見えなかったが間違いなく親友の彼だった。
「ごめんなさい、██さん。貴方を停めるにはこうするしかなかったんです」
何故か涙を流しながら謝る彼を最後に青年の記憶は途絶えた。
コメント
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あら…私の書いてる長編小説(もどき)より読みやすいわ…( とにかく…お身体に気をつけて頑張っていただければ〜!
なにやら大規模な事が起きそうスタート。 これからのストーリーが楽しみすぎます✨💕