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「えっ、愛知……」
「うん。三ヶ月後にはここを退去して、愛知の支社のオーナーが住むマンションに入れてもらえるみたい」
「そうなんだ……かなり猶予もらったんだね」
娘は本当に穏やかに育った。時折わがままも言うけれど、酷いものではない。反対に、私のわがままでここまで一緒にいてくれて、申し訳ない気持ちさえ湧いてくる。
「高校のこともあって、猶予がもらえたのよ」
「愛知の高校?」
「うん、今編入先を探してて、一校だけ返事待ち。シングルマザーで途中からって、なかなか見つからないのよ」
もちろん、私が今している仕事のことは娘には言っていない。ほかにも仕事はあるだろうけど、今の仕事をしてからは割が合わない。
「私、高校辞めて働いてもいいんだよ。バイトももっと良いところ探して……」
「ダメよ、今学校辞めたら。せめて大学は出てほしいから、ママは一生懸命働いてるの」
「……」
「オーナーさんが言ってたんだけど、一階にファミレスがあるから、そこでバイトもできるみたいよ」
「……うん、それならいいかも」
「今、返事待ちしてる高校にも近いから。できれば、二年生になってすぐがいいんだけどね」
「いいよ、無理しなくていいよ」
その時、外が急に雨が降り始めた。
なんだか朝から頭が痛くて、眩暈もする。生理が近いせいかと思っていたけれど、雨のせいもあったのかもしれない。
体が震え始めた。
「雨……」
カーテンを握りしめる手が震えている。藍里が気づいたら、部屋に入ってきていた。今住んでいる寮も、もう5年近く経つけれど、風呂トイレ付きの二部屋の部屋なんて贅沢な場所だと思う。
愛知――岐阜から少し遠いが、行けなくはない。でも、あの家はもう売り払ったと、綾人から聞いた。
それを養育費に充てて、毎月支払われている。それでも、我慢して彼と暮らしていた頃より少し余裕ができたものの、まだ足りない。
ああ、ダメだ。ネガティブな気持ちはだめなのに……ポジティブでいなきゃ。
雨はだんだん強くなり、息が荒くなった。
もっと強くなる雨。
「……雨っ、あめっ、あめっ……あああああああっ」
居間の机を蹴り上げ、壁にぶつけた。ああ、壁紙が破れてしまった。
……ああ、出る時にチェックされる。どうしよう。私は壁紙を擦りながら、必死に思考を整理する。
他にも、いくつか凹んだ跡や、破れたカーテンもある。
雨が降ると、どうしてこうも情緒が乱れるんだろう。
気づけば叫びながら泣き、ひどい時は物に八つ当たりをしてしまう。
その日はもう、仕事に行けない。
生理と重なると、余計に辛くなる。
ああ、雨が嫌い。