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まだ高校からの連絡はない。たった一人の、まだ二年生の女子生徒が学ぶ機会を失ってしまうのか。今の高校からも「早く決めてほしい」と言われているが、返事は来ないままだ。
仕事を終えて事務所で面談を受けていると、事務長の男性がやってきた。
「まぁ、こっちに残留って選択肢もあるけど……正直、厳しくなるな。下の子が増えてきたし。まあ、年上、熟女の需要はあるにはあるが」
……私ももう40を過ぎた。あの〇〇さんみたいな人生をたどることになるのか?
「今週、愛知支店に行くから、一週間ついてくるか?」
「えっ……」
「愛知の方も楽じゃないが、一度は現場を見ておいたほうがいい」
正直、オンラインだから全国の客と繋がれるわけで、支店がどこにあろうが関係はない。それは分かっている。
どこもかしこも、若い子を求めるのだ。
私みたいな40を過ぎた女を求める客はごくわずか。何人かの常連客はいるものの、急にいなくなる人もいる。いつ切られるか分からない、綱渡りのような状態だ。
「大丈夫。それに、美味しい店にも連れてってやるから」
事務長が不用意に私の手を触ってくる。振り払いたい衝動に駆られたが、それをしたら終わりだ。
オンライン風俗は触られない、キスもされない。だからこそ良かったのに、この事務長はやたらと体を触り、セクハラ発言も多い。
ほかの女性スタッフも被害に遭っているが、みんな見て見ぬふりをしている。
私は手を握られるのをじっと耐えた。握られていない方の手は、机の下で中指を立てながら。
***
藍里は、神奈川で唯一仲良くなったママ友の家族に預けた。本当にありがたい。
仕事のことはもちろん話していないが、そのママ友も元々バツイチで、「私も人に助けてもらったから」と、私のことも気にかけてくれている。
藍里は友達と一緒にいられるし、ゲームもあるからと、楽しそうにしていた。
藍里のため……藍里の……。
ふと、〇〇さんの顔が頭をよぎる。
私のため……?
……。
外ではまだ雨が降り続いている。
生理が来たばかりでの出張。最悪だ。パフォーマンスが制限される。
部屋の壁紙はまだ直していない。蹴り上げた机の脚はおかしくなっていたが、そのままにしてきた。藍里は何も言わず、リビングの机を使っていた。
もし、私があのまま我慢していたら?
離婚していなかったら?
今ごろ、どうなっていたんだろう。
決意して逃げて、なんとかして離婚して――。
それでも、藍里にこんな思いをさせずに済んだのだろうか。
……ダメだ。ネガティブなことを考えては。
私は安定剤を口に含み、水で流し込んだ。
久しぶりの地元に近い場所。
大丈夫。綾人は今、東京にいる。
神奈川にいる娘には、守ってくれる人がいる。
大丈夫よ。