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「ん? おう! ムラタ! 来たか」
ルーザーさんと共に洞窟へとやって来た。
すると洞窟の入り口でエクスが彼の仲間と共に待っていてくれた。手を振って挨拶をすると、彼は恥ずかしそうに手を振り返してくる。
「ははは、ムラタの前じゃエクスも形無しだな」
「ルーザーさんの前でもですよ」
恥ずかしそうに鼻を指でこするエクスにルーザーさんは笑って背中を叩く。
彼らが仲良くなってくれてよかった。微笑ましいな。
「さて、早速」
「ルーザーさん。ちょっと待ってください」
「ん? エクス? 何か用事でもあるのか?」
ルーザーさんが早速洞窟へと入ろうとすると、エクスに止められる。彼は僕の前に立つと頭を下げてきた。
「改めて謝らせてくれ。すまなかった!」
「ええ!?」
エクスが急に謝ってきて僕は驚き戸惑う。彼の仲間達も一緒になって頭を下げてくれてる。
「ルーザーさんも! 申し訳ありませんでした!」
僕に続いてルーザーさんにも頭を下げるエクス。僕はルーザーさんと目が合って思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「もういいんだよエクス。律儀だな~」
「こういうことはちゃんとけじめをつけないといけないからな。ムラタ本当にすまなかった」
「もういいってば」
再度頭を下げてくるエクス。あんな悪口を言ってきていたくせに律儀だ。
おっと、そのことを言ったらまた謝ってきそうだから言わないようにしないとな。
「それで……。ムラタの後ろにいる人達は?」
「あ、初めてだよね」
町を出てすぐに、僕はジャネット達を呼び出していた。
エクスの疑問に答えて彼女達を紹介すると少し驚いた様子で僕を見つめる。
「変わったパーティーだな。狼もいるなんて」
「おっと、エクス。詮索はしないでくれよ。ささ、洞窟を調査だ」
エクスが何か聞いてこようとしてくるとルーザーさんが話を遮って洞窟へと彼を押し込んでいく。
「コボルトだ!」
エクスの仲間達を先頭に洞窟を進んでいくと、早速コボルトが現れる。
弓、剣、斧が次々とコボルト達にめり込んでいく。魔法使いはいないけど、遠近とバランスの取れたパーティーだ。
「死骸を頼む」
「了解」
エクスの仲間が死骸を外へと運んでいく。後でいいと思った僕は首を傾げる。
「逃げる時に死骸があると危険だ。足を取られることがあるからな」
僕の様子を見て説明してくれるエクス。僕より冒険者として年季のはいっている彼は、色々と考えて動いているみたいだ。勉強になるな。
「死骸を片付けている間にもコボルトはやってくるだろう。少しでも進んでおこう」
ルーザーさんがそう言って先行する。
分かれ道までやってくるとエクスと別れる。
「前は俺とジャンで行く。ジャネットは後ろを頼む」
「あの、僕は?」
「ムラタは……ルドラと前後を警戒だ」
「ワン!」
ルーザーさんを先頭に進んでいく。彼の指示を聞いて質問するとルドラが元気よく答えた。
まあ、僕って完全に戦力外だからな~。強くなるのはいつなのだろうか。
「ギャンギャン!」
「来た! ジャン! 1匹を頼む!」
「わかってる!」
コボルトが前から現れる。1、2、3……どんどん増えてる。
「どうやら、こっちの道が正解みたいね」
「マスター! 姉さんの後ろに!」
「了解! ……ええ!?」
ジャネットが前方に移動して剣をぬく。ジャンが僕へと声を上げてきた、僕はそれに答えて後ろに移動した。
だけど、その時。驚愕の出来事が起こる。赤い夜だ。
『赤い夜がやってきました。防衛者を雇ってください。【赤い騎士ジャネット 100ラリ】【青い剣士ジャン 100ラリ】【緑の狼ルドラ 100ラリ】』
「マ、マスター!」
「じゃ、ジャネット!? みんな!?」
赤い夜の声が聞こえるとみんなが村スキルのウィンドウへと消えていく。
強制的に帰されてしまうみたいだ。
「お、おい……どういうことだ!?」
「ルーザーさん! 説明は後です! 逃げましょう!」
ルーザーさんは攻撃してくるコボルトを倒しながら驚いてる。
二人で相手が出来る数じゃない。僕は一人に入らないしね。ここは逃げの一手だ!
「お前は全力で走れ! 俺は後ろ向きで歩きながら行く。エクスを呼べ!」
「わ、わかりました! き、気を付けて!」
「俺のことは気にするな。だが、コボルトがお前を狙ってる。打ち損じたらお前の所に行っちまうからな! 油断するなよ!」
「ええ~~!?」
切迫した状況、ルーザーさんの指示を素直に答えて全速力で後退。
コボルトと切り合いながら彼が恐ろしいことを言ってくる。思わずコボルト達を見ると僕に一斉に視線を向けてきた。
どんなホラー映画よりも怖いとがった視線。僕はトリハダが立つのを感じながらも後ろを向くのをやめて走りなおす。
「と、とにかく! 赤い夜を早く終わらせるためにみんな雇って!」
村スキルのウィンドウを操作してジャネット達を戦闘させる。
いつもよりも早く村の外へと駆けるジャネットとルドラ。ジャンはいつも通り村の入り口に、城門を守るみたいだな。
「お、おお!? バリスタ?」
イカルスの要望を聞いて作ったバリスタがもう出来上がってる。彼は本当に仕事が早いな。
城壁の上に2台のバリスタ。大きな弓を横向きにしたような作りをしてる。操作する村人が取っ手を回して縄を引っ張っていく。
弓の弦を振り絞って限界まで回すと固定して狙いを定め始める。
「え!? コボルト! って僕の後ろにも来た~!」
「ギャンギャン!」
ジャネットとルドラが戦っているのもコボルト。悠長にジャネット達の戦いを見ている場合じゃない! 追いつかれる。
「ギャンギャン!」
「だ、ダメだ。追いつかれる。戦うしかない!」
ザザ~! 足を止める音が僕とコボルトの間に落ちる。僕が振り向いたことでコボルトも緊張してナタのような剣を握る。
刃の部分が異様にぎらついているように見える。ゴクリッ! 静寂が僕の生唾を飲み込む音を際立たせる。
「ハァハァハァ」
走っていたのもあって息が切れてる。緊張で心臓が爆発しそうだ。
「ハァハァ……。ふぅ」
息を整える。ルーザーさんとエクスと剣の訓練をしたんだ。その時に教えてもらった。
『冷静でいろ。そうすれば魔物の動きなら見切れる』
「はい。ルーザーさん」
たった一度の訓練しか、僕を支えてくれない。頼るしかないんだ。教えてもらったことを反復していきなり実戦で使う。
「あ、あれ……。おかしいな……」
冷静になった……。冷静になると自分が震えているのがわかる。それに気が付いたのは僕だけじゃない。
コボルトが僕を見つめてニヤリと口角を上げる。そして、大きく飛びついてナタを振り下ろしてきた。
「わっ!? え!」
コボルトが僕へと襲い掛かってきた。だけど、ルーザーさんとエクスよりもはるかに遅い。160キロの速球と90キロのスローボール、それほどの差を感じる。
僕はナタを剣で撫でて受け流すとコボルトの胴に剣を添えた。ズブッ、嫌な感触が剣を伝ってくる。ゴブリンの時と同じだ。命を切り取る感触。
「うぷっ……。まだ慣れないな」
コボルトと交差した後、後ろを見ると上半身と下半身が分かれた物があった。
これに慣れた時、僕はこの世界の住人になれるのかもしれないな。