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「ここを抜けるとすぐですよ」
山の麓の木が生い茂る中、きこりルックのわたしと今は前を垂らして着崩したオーバーオールのエルフが木の根や枝を避けながら歩いている。
しかしきこりルックのわたしにはこんなものは障害ではない。なんだかよく切れる鉈で枝を払い、つまずかないよう足元に気をつけて進んでいく。きこりルックエルフはこんなのには負けないのだ。
「よく似合ってて可愛いと思いますけどねー」
笑顔でそんなことを言われると素直に嬉しくなる。けどそう言ってくれた目の前のオーバーオールエルフを見てすぐに不安になる。それでも楽しくて鼻歌を口ずさむ。
「さあ、着きましたよ。あの赤茶色の大きな木がそうですね」
確かにそこには他とは違う印象の太い木が天を衝くようにして聳えている。
「フィナさんには、あの木の太めの枝を一本と幹の皮をそうですね……練習場にあった盾くらいの量を削ってください」
そう言ってロズウェルさんはストレッチを始める。なんだか楽しそうで、促されて同じ様にストレッチをする。笑顔のロズウェルさんとするストレッチはしっかりと身体をほぐし、今ならどんな運動でも怪我しなさそうな気がする。楽しくてわたしニッコニコ。きこりも悪くないかもっ。
「じゃあ、先に斧を持ってくださいね。準備はいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
確かにあの高い位置にある枝を切ろうかと思うと木登りとかしなきゃだから、ストレッチしっかりしておいて良かった。
右手に斧を持って鉈は地面に置いておく。
「ではやりますか」
そう言ったロズウェルさんは弓を構え、矢を放つ。練習場の時とは違う、威力を伴った矢。
なぜ?とか疑問はあったけど、その流れるような動作に目を奪われいつかはこんな風に弓を使ってみたいと、口を半開きにした間抜けな笑顔で見蕩れていた。
ズゴォンッっとそれが木に刺さった矢の音かと思う轟音が響いて、続いて太くしなやかな木の枝がロズウェルさんを狙って、飛んできた。
鞭のように繰り出された一撃をロズウェルさんは後方に飛ぶことで難なく躱す。
突然のことに呆気に取られて固まった笑顔のまま木を見ると、幹のうろが凶悪な顔のように歪んだ化け物が樹上の枝を揺らしてわたしたちを睥睨していた。
「ぐすっ……」
わたしは涙目になった。