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#高校生
第22話 「球児の夏が止まった日」
五月。
雨の日だった。
柳城高校野球部は、まだ通常練習を再開できていなかった。
学校も分散登校。
グラウンドに全員が揃うこともない。
そんな中。
午後。
部室のテレビに速報が流れる。
『第102回 全国高等学校野球選手権大会 中止決定』
空気が止まった。
誰も、声を出せない。
小早川啓介は、画面を見つめたまま動かなかった。
中止。
つまり――
夏の甲子園が、ない。
三年生最後の夏が、消えた。
「……嘘やろ」
誰かが呟く。
だが現実だった。
ニュースキャスターの声だけが響く。
『感染拡大防止の観点から――』
言葉が頭に入ってこない。
舞も、スコアブックを持ったまま固まっていた。
部室の時計の音だけが聞こえる。
夕方。
全体ミーティング。
全員が距離を空けて座っていた。
福間監督は前に立つ。
いつも通り、静かだった。
だがその顔は、少し疲れて見えた。
「……甲子園は中止になった」
誰も顔を上げない。
三年生の中には、涙をこらえている者もいた。
「悔しいと思う」
「納得できんやつもおるやろ」
福間監督は一人一人を見る。
「俺も悔しい」
その言葉で、空気が揺れる。
福間監督は、滅多に感情を表に出さない。
「お前らなら、行けると思っとった」
静まり返る部室。
小早川は拳を握る。
今年なら。
このチームなら。
本気で、甲子園へ届くと思っていた。
福間監督は続ける。
「でもな」
「野球がなくなったわけやない」
全員が顔を上げる。
「お前らが積み上げたもんは消えん」
「それだけは忘れるな」
その声は、少し震えていた。
ミーティング後。
誰もすぐには帰らなかった。
静かなグラウンド。
小早川はバックネット裏に立っていた。
誰もいないホームベース。
春からずっと追いかけてきた景色。
その先にあるはずだった甲子園。
「お兄ちゃん」
振り返ると、舞が立っていた。
何か言おうとして、でも言葉が出ない。
小早川は少し笑う。
「泣くなよ」
「……泣いてないし」
でも声は震えていた。
その時。
後ろから福間監督の声。
「小早川」
「はい」
「終わったと思うな」
啓介が振り返る。
福間監督はグラウンドを見たまま言う。
「この夏は、お前らだけの夏やない」
「全国の高校球児、みんな同じや」
少し沈黙。
「だから下向くな」
夕焼けのない、曇り空。
その灰色の空を見上げながら、小早川は唇を噛んだ。
夢は消えた。
だが――
まだ、終わってはいなかった。
第22話 終
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