普通に接するって難しい
修学旅行2日目の朝。
旅館の広い和室。男子の部屋はすでにガヤガヤしていて、パジャマ姿のまま菓子をつまむやつもいれば、寝癖のまま寝ぼけているやつもいる。
その中で、いるまは無言で荷物を整理していた。
「いるま、昨夜どこ行ってたんだよ。お前布団入ってなかったろ?」
クラスメイトの声に、いるまは眉をひそめて言い返す。
「……暑かったから風に当たってただけ」
「ふーん?らんもいなかったけどな?」
その瞬間、いるまの手がピタッと止まった。
けど、すぐに何でもないふうに再開する。
「アイツもじゃねえの。知らねーよ」
その時、部屋のふすまが開いて、らんが入ってきた。
ちょっと寝ぼけた顔。髪はまだ跳ねていて、目は半分しか開いていない。
「おはよ……」
一瞬だけ、らんと目が合った。
その瞬間、”ふたりだけにしか分からない“夜の記憶”が、ふっと空気に漂った。
……けど、らんは何も言わず、普通のテンションで隣のやつに話しかけた。
「なあ、朝メシまだ?」
「もうすぐって先生言ってた。寝坊すんなよー」
「だいじょぶ、だいじょぶ~」
ニコニコと笑いながら、らんはふだん通りに振る舞っている。
……いるまは、その背中をじっと見ていた。
(なんで、何も言わねぇんだよ……)
__昨夜、あんなにも近くにいたのに。
__あんな言葉、交わしたのに。
「……っ」
耐えきれず、いるまは小さく舌打ちした。
それが、らんの耳にだけ、ちゃんと届いた。
ふと、らんが振り返り、いるまを見る。
ふたりの視線が重なって――
らんは、ちょっとだけ寂しそうに笑った。
「……いるま、あとでさ。ちょっと時間ある?」
それは“ふたりだけの会話”を求める、静かな呼びかけ。
いるまは、口元を少しだけ緩めて、うなずいた。
「……ああ。お前が呼ぶなら、いつでも」
コメント
1件
…これ、付き合ってないってマジですか、!? 悲しそう…らんらんに向けて舌打ちされたと思ったのかな、? 今回も最高! 次も待ってるね!