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「俺達はそんなんじゃねえよ」
高嶺は、俺の言葉を受けて、ぶっきらぼうにそう返した。
颯佐が好きだろうという言葉に対し、否定的な言葉を返した高嶺だったが、その実諦めきれないような、もどかしいような表情を浮べていた。
高嶺が恋愛的な意味で颯佐を好きなことを俺は知っていた。
それでも、彼奴らはどういう理由があってか、親友の枠に収まっている。それが、何となく警察学校時代の俺には羨ましく思えた。
幼馴染みで親友同士であれば、神津がいない……そんな苦しみや寂しさから解放されたのだろうかと。恋人というくくりに縛られたせいで、俺はずっと苦しかった。会えないのも触れられないのも。だが、親友同士であれば少し離れていてもそこまで何も思わなかったんじゃないかと。
意図的に彼らは、親友であることを選んだのではないかとすら思っていた。
けれど、諦めきれない。と顔に貼り付けている高嶺を見ているともどかしさを感じる。
「俺はお前らとは違うんで~」
「あっそ。別に、俺もお前らの関係に何か言うつもりはねえけど、高嶺は顔に出やすいからな。あっちも気づいていて、何もいわねえんだろ」
「……いいんだよ。知ってる。でも、俺は今の関係を崩したくねぇし」
と、高嶺は譫言のように呟く。
所謂、両片思いな二人を見て俺は何も言わない方がいいと、口を閉じた。
確かに、警察学校時代、あの二人が付合っていてそれに挟まれていたらきっと消えたくなっただろうから。だが、もしそういう理由で彼らがくっつかなかったとしたら、考えすぎかも知れないが、俺の事を気遣ってお互いに思いを伝え合えなかったとしたらそれもそれで申し訳なく思った。
まあ、過ぎ去ったことは仕方がない。
「だけどよぉ、明智。何でお前らそんな事になってんだよ」
「そんな事って、どんな……」
「倦怠期だよ。け・ん・た・い・き!」
「大きな声で言うな! 馬鹿!」
わざとはっきりとした声で言う高嶺に怒鳴りつつ、倦怠期、それにちかい状態であることは否定できないため言い返す言葉がなかった。
どうしてこうなっているのか、神津にキスされなかったのか、言うのも恥ずかしい。
だが、高嶺は「話してみろよ」と勧めてきたため、つい口が滑って全てを吐き出してしまった。
「その……せ、初夜を失敗して」
「うへぇ、それか。ま、まあ、男同士だし色々あるよなあ」
と、高嶺は気まずそうに視線を逸らす。
やはり言うべきじゃなかったかと唇を噛んだが、続けろと言うように高嶺がチラチラと見てきたため、俺は腹をくくって続けることにした。
「俺が、拒んじまったから……それっきり」
「友人の情事の話~」
「馬鹿にすんのか、聞いてくれんのかどっちなんだよ!」
思わず大声を出せば、高嶺は楽しげに笑いながら肩をすくめた。
だが、こんなことを相談できる数少ない相手ということもあって、いっそのことぶちまけた方が楽になるのではないかと思った。アドバイスが貰えずとも、話せば楽になるかも知れないと思った。こいつに話すのは気が引けるんだが。
確かに高嶺の言うとおり、友人の情事の話を聞かされてもという感じはあるし、俺だったら恥ずかしくて耳を塞ぎたくなる。
「聞いてる、聞いてる。性行為なしの、純愛と性愛の狭間? つうか、束縛彼氏様と上手くいってませんーって話だろ?」
「お前、言い方。つか、その束縛彼氏って言うのやめろ、人の恋人に対して」
事実、事実。と高嶺は再度笑うと、何かがツボったのか、ブッと汚らしい笑い声を上げ腹を抱えていた。
矢っ張り話すんじゃなかったと後悔している。
「……もうそれでいい」
「束縛彼氏はいいのかよ」
「……はあ……で、それで、話が進まねえから続けるが、それ以降手を出してこなくなったつうか。俺が拒んじまったせいだよな」
「明智って結構そういう所あるからなあ。変なところでうぶっつうか」
と、高嶺は呆れたようにひらひらと手を振った。
自分でも自覚がある。
素直になれないし、変なところで意気地なしで……大体全部俺が悪い。
「それで?」
「それでも何もねえよ……」
「うわっ……破局待ったなしだな」
「殴るぞお前」
「公務執行妨害です!」
と、高嶺は手で×を作る。
俺がもっと一歩踏み出していれば、こんなことにならなかったのかも知れない。俺が、男だから嫌だと思ったのだろうか。それとも、神津は――
「あ~だから、さっきキスしなかったのか彼奴」
「…………どうすればいい? 俺は」
高嶺は納得とでも言うように何度も首を縦に振ると、腕を組んで考えるそぶりを見せた。
「明智って変なところで気使うよな。それに、行動しなくても相手がってタイプだろ。純日本人って感じ。言わなくても分かるって、彼奴は海外で十年間過ごしてたんだろ?偏見だけどよぉ、やっぱ好きだって口にして伝えた方がいいと思うぜ」
「それが出来るなら苦労しねえ」
「まあ、頑張るこったな」
と、本当に他人事のようにいって高嶺は笑った。
俺たちの恋を嘲笑うかのように。
だが、こいつはこんな奴だと割り切って俺は高嶺の言葉を頭の中で何度も復唱した。
(好きって口にして伝えるか……)
そう考えていると、ガチャリと扉が開きジュースを持って神津と颯佐が帰ってきた。二人とも、いつも通りの笑顔で、神津は「春ちゃんの番、まだ?」といってきたため、俺は目の前に置いてあったマイクを手に取った。