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CASE 辰巳零士
九条家に居た頃の蘇武は、何かとお嬢と接点を持ちたがっていた。
親父も蘇武の事を目を付けていて、俺に監視するように命令した。
蘇武のお嬢に対する執着心は凄まじいものだった。
どうやら、俺がお嬢の世話係になった事が相当、嫌だったらしい。
4年前ー
当時、俺が25歳でお嬢の世話係になり立ての頃だった。
「辰巳!!どう言う事だ!?」
「あ?」
「お嬢の世話係に何で、テメェが選ばれてんだよ!?」
日本庭園に蘇武の叫び声が響いた。
「親父が決めたんだ。蘇武、お前が意見する事は、親父に意見してんのと一緒だ。」
「辰巳とお嬢は接点がなかっただろ?!なのに、何でだ!!」
この時は何故、蘇武がお嬢に対してこんなに執着しているのか分からなかった。
「知らねーよ、意見があんなら直接言えよ。そんな度胸ないくせに、俺に意見してくんなや。あ?お前をここで、殺しても良いんだぜ。」
カチャッ。
そう言って、俺は蘇武の首元に銃口を突き付けた。
「辰巳、蘇武!!何やってんだ!!」
親父の怒鳴り声が俺達に降り注いだ。
「お、親父っ…。」
「お疲れ様です、親父。」
「辰巳、銃を下せ。」
俺は親父に言われた通りに、蘇武の首元から銃を下ろした。
「蘇武、美雨の世話係を辰巳にした事が、不満らしいな。」
「お、親父。何で、辰巳なんですか?俺の方がお嬢と一緒にいましたよ!?なのに、急にお嬢に近付くなって、何ですか!?」
「お前、美雨の服を盗んだろ。」
コイツ、お嬢の服を盗んだのか?
気持ち悪い奴だな…、ロリコンかよ。
親父の言葉を聞いた蘇武は、後ずさった。
「っ!?な、何を言って…。」
「白を切るのは良いが、お前は破門だ。」
「親父!?嘘ですよね!!?は、破門だなんて…。」
「お前、薬にも手出してんだろ。分かってんだよ、売人から薬を買ってる事も、美雨の部屋に監視カメラを付けてたのもな。」
ガシッ!!
親父は蘇武の胸ぐらを掴んだ。
「な、何で…、カメラの事を…っ。」
「俺の知り合いに機械に詳しい奴がいんだよ。」
「蘇武、君にはガッカリしたよ。」
晴哉(はるや)さんが部屋から出て来た。
手には短刀と木の板が握られ、晴哉さんは組員に目配せをした。
すると、組員が蘇武の体を砂利に抑え付けた。
「わ、若!!?」
「蘇武。落とし前、付けようか。」
晴哉さんは笑顔のまま、蘇武の前にしゃがんだ。
「わ、若、許して下さい!!お、俺は、お嬢の側を離れたくありません!!ゴフッ!!」
「気色の悪い事、言ってんじゃねーぞ。」
「っ!?」
蘇武の頬を殴り付けた後、髪を乱暴に掴んだ。
「美雨がお前を怖がってんだよ。それにこの組にいる以上、薬は御法度の筈だ。蘇武、組を抜けるには落とし前を付けてからだろ。手、ここに出させろ。」
「分かりました。」
「や、やめろ!!やめろってば!!」
蘇武は叫びながら手を出す事を拒否していたが、組員に無理矢理、手を木の板の上に置かれた。
短刀が小指に添えられ、蘇武は額に大量の冷や汗を流していた。
「や、やめて下さいよ…。わ、若はそんな事をする人じゃありませんよね?」
「テメェ、蘇武!!若に何て口を聞いてんだ!!あ?!」
「大人しくしてだ方が痛くねぇぞ、蘇武。」
「ひっ!?」
蘇武は小さな声を漏らした。
「辰巳、お前は美雨の部屋に行っとれ。」
「分かりました。」
親父に促され、俺はお嬢のいる自室に向かった。
「ギャァァァァァ!!!」
蘇武の叫び声が聞こえる。
うるせぇな…、まぁ、アイツは叫ぶだろうな。
痛みに弱いし、ビビリだ。
部屋の前に早希(さき)さんが、フルーツを持って立っていた。
早希さんと言うのは、晴哉さんの嫁さんだ。
つまり、お嬢の母親である。
「あ、辰巳君。」
「早希さん、お疲れ様です。」
「辰巳君が来てくれて良かった。これ、美雨と一緒に食べてくれないかな?」
「早希さんが一緒に食べるんじゃ?」
俺の言葉を聞いた早希さんは、苦笑した。
「それがね?美雨は辰巳君をご指名なのよ。あの子、辰巳君に凄く懐いてるのよ。お願い出来る?」
「は、はぁ?分かりました。」
「ふふ、宜しくね。」
そう言って、早希さんは俺にフルーツの乗った皿を渡して、台所の方に歩いて行った。
お嬢が何故、俺に懐くのか分からなかった。
大した会話もしてなければ、お嬢とどこかに出掛けた事すらないのだ。
トントン。
襖を軽く叩くと、ゆっくりと襖が開いた。
頬を桃色に染めたお嬢が、俺をジッと見つめた。
「辰巳、お仕事は?」
「急ぎの仕事は特にないので…。お嬢、早希さんがフルーツを剥いてくれましたよ。」
「わぁ…、キラキラしてる。辰巳も一緒に食べよ。」
「分かりました。」
俺はお嬢の部屋に入り、一緒にフルーツを食べた。
普通の子供より痩せ細った体は、尊さを表していた。
こんな事を思うのはおかしいが、お嬢は綺麗だ。
「辰巳、あーん。」
「あ、えっと…。」
「あーんして。」
お嬢はフォークに苺を刺して、俺に差し出した。
小っ恥ずかしいながら、俺は口を開けた。
「辰巳、照れてる。」
「や、やめて下さい…。」
「辰巳がいると嬉しいなぁ。一緒に食べれて嬉しいな。」
「お嬢、ご飯を食べてないんですか?」
俺の言葉を聞いたお嬢は、フォークを置いた。
「蘇武のおじちゃんが持って来たご飯に、髪の毛とか変なのが入ってたの。」
その言葉を聞いて俺はゾッとした。
蘇武はお嬢に何て物を食べさせようとしていたんだ。
「だから、ご飯を食べたくない。ママが作ってくれたご飯も、食べれなくなっちゃった。怖いの、食べる事が。」
「俺とは食べれるんですか?」
「うん。」
「ど、どうして?」
お嬢の言葉を聞いて、俺は悲しくなった。
「だって、辰巳は美雨の事を好きじゃないから。ご飯にも美雨自身にも何もしないでしょ?」
「だから、俺を側に置くんですか?」
「美雨は…、こんな事言ったら、辰巳に嫌われちゃうけど…。美雨はあの時、辰巳を離しちゃいけないって思ったの。初めて会ったあの日の辰巳は、このままだと死んじゃうと思ったから。」
お嬢はそう言って、オレンジを口に運んだ。
この子は…、人から好意を持たれる事を怖がってる。
蘇武が植え付けた恐怖は、かなり根強いものだ。
俺を側に置くのは、俺を死なせたくないのと、お嬢に好意が無いからとお嬢は言った。
子供が悲しい素振りも見せずに、この言葉を放ったのが…、悲しく思えた。
悲しいなんて言う感情が俺にもあったのか。
お嬢は綺麗だ、汚れのない真っ白な存在。
その日から、俺とお嬢は一緒に食事を摂るようになった。
お嬢は嬉しそうに俺に笑い掛け、楽しげに食事を取っている。
自分の中にある感情が芽生えて来たのを感じた。
この子を護りたい、そんな感情が芽生えた頃に悲惨な事件が起きた。
その日は、雨が降っていた。
俺は仕事の為に九条家を離れていた。
お嬢の事が心配だったが、親父からの依頼だった為に行くしかなかった。
ブー、ブー。
車を停止させ、電話に出た。
「辰巳さんっ!!直ぐに戻って来て下さい!!」
組員の声からして、慌てているのが分かった。
「何があった。」
「他の組が乗り込んで来ました!!グァァァァッ!!」
ブチッ!!
通話が切られ、俺の頭の中にお嬢の顔が浮かんだ。
血の気が引くと言うのは、こう言う感覚なのかと実感した。
足がふわふわして、吐きそうになった。
俺は急いで九条家に戻り、目の前に起きている現実に驚いた。
九条家の本家が血で真っ赤に染まっていた。
飛び散った肉片や、銃弾が床に転がっていて、吐きそうな程の血の臭いが充満していた。
組員の殆どが重症で、早希さんは既に亡くなっていた。
「ゴホッ、た、辰巳。」
「晴哉さん!!」
脇腹を抑えながら、晴哉さんは歩いて来た。
「み、美雨が、さ、攫われた。」
「お嬢が!?」
「あ、あぁ…。辰巳、美雨を…っ。」
「晴哉さん!!」
倒れそうになった晴哉さんを抱き止めたが、晴哉さんは息をしていなかった。
晴哉さんは武器を持っていなかった。
背中の傷からして、お嬢を抱き締めて、守っていた事が分かった。
俺はソッと、晴哉さんを寝かせ、車に急いだ。
お嬢はどこにいる?
誰に攫われた?
「蘇武か。」
蘇武の顔が頭に出て来た。
蘇武が確か、管理していた倉庫が1つだけあった。
もしかしたら、そこにお嬢がいるかもしれない。
俺は車のスピードを上げ、倉庫に向かった。
倉庫に到着すると、雨の中、男共が群がっていた。
俺は木刀を手と一緒にガムテープで固定し、銃を取り出した。
「来たぞ!!」
「殺せぇぇぇ!!!」
男達は俺に向かって、武器を振り翳して来た。
この時の記憶は曖昧で、どうやって男達を殺したのか分からなかった。
体は刺された傷が多く、血が流れていた。
地面には男達の死体が転がり、俺は倉庫の扉を乱暴に開けた。
バンッ!!!
蘇武はお嬢を押し倒し、服を脱がせようとしていた。
お嬢は何も反応せずに、泣き腫らした目を俺に向けていた。
俺の中で中かが、切れた。
「た、辰巳!?ゴフッ!!」
俺はお嬢から蘇武を引き離し、木刀で殴り付けた。
「テメェは殺す。」
「ゴフッ!!や、やめてぐっ、ゴフッ!!」
何度も何度も、木刀で蘇武を殴り付けた。
ただ、蘇武を殺したい感情に駆られていた。
殺す、殺す、殺す、殺す。
「た、つみ…。」
ピタッ。 「た、つみぃ…っ。」
お嬢は泣きながら、俺の名前を何度も呼んだ。
「お嬢っ。」
俺はお嬢の体を優しく抱き締めた。
小さな手が俺の背中に周り、ギュッと力強く抱き締めた。
「うわああん!!辰巳、辰巳!!」
「はい、辰巳はここにいます。」
「辰巳、辰巳、美雨、美雨が…、ママを、ママを。」
お嬢は九条家で起きた事を言おうとしていた。
「み、美雨が美雨が死ねば…、死ねば良かった。美雨がいなかったら、ママとパパがっ。」
「お嬢の所為じゃありません。この男がやった事です。誰もお嬢を責めたりしない、だからそんな悲しい事を言わないで下さい。」
「辰巳…、泣いてるの?」
そう言って、お嬢は俺の頬に触れた。
自分の瞳から涙が流れている事に気が付かなかった。
俺、泣いてるのか?
「辰巳、泣かないで?辰巳…。」
「お、俺…、おかしいな。涙なんて…、お嬢が死ねば良かったなんて、言うから…っ。」
「ごめんね、ごめんね。辰巳、泣かないでぇ…。」
お嬢は泣きながら、俺の涙を拭った。
「お嬢と一緒に居たいんです…。」
「辰巳?」
「俺はお嬢と一緒に生きていたい。これからも、この先も。お嬢の事は俺が守ります。だから、死ぬなんて言わないで下さい。俺を底から救い上げたのは、美雨だろ…。」
俺の言葉を聞いたお嬢が、俺にキスをした。
ジャキッ!!
カチッ!!
何かが、繋がった気がした。
俺達の周りに、赤い鎖が浮いていた。
「お、お嬢…。これは?」
「辰巳、美雨は辰巳を離せなくなっちゃうよ。それでも良いの?この先も、美雨は辰巳の事を縛っちゃうよ?」
「俺はお嬢と離れる気はありませんよ。」
そう言ってもう一度、お嬢を抱き締めた。
蘇武が他の組と手を組み、晴哉さんと早希さんを殺した事が判明。
親父は警察に突き出し、蘇武を刑務所に放り込んだ。
晴哉さんと早希さんの葬儀の中、俺はお嬢の手をずっと握り締めていた。
その日から俺達はずっと、一緒にいた。
どんな時も、どんな感情も共有して来たんだ。
お嬢の心の傷は、ずっと残ったままだ。
蘇武がした事は重過ぎる。
お嬢が笑えるように、お嬢が平和に過ごせるように、俺は…、何だってする。
蘇武の首元から大量の血が噴き出した。
倒れた蘇武の体に刀を突き刺さし、動けないようにした。
お嬢は顔を抑えながら、泣いていた。
「わぁお、辰巳君の愛は本物やなぁ。」
二見瞬は俺を見ながら嫌味を放つ。
そんな事はどうでも良い、誰に何て言われようが関係ない。
俺は、お嬢を美雨を愛してる。
だから、お嬢の為にどんな事だって出来る。
例え、それが人殺しであろうとも、俺は喜んで殺す。
俺はゆっくりとお嬢の体を抱き締めた。
「遅くなりました、お嬢。」
「た、辰巳…。辰巳っ。」
ギュッとお嬢が俺の体を強く抱き締めた。
「辰巳、辰巳っ。」
「お嬢、すいません。遅くなりました。」
「馬鹿!!辰巳の馬鹿!!ダメって言ったのに!!」
「ハハッ、すいません。お嬢の事を抱き締めたくて、無茶しました。」
ポンポンッと頭を優しく撫でた。
「辰巳…、迎えに来てくれるって信じてた!!」
お嬢は満面の笑みを向けた。
俺の心が一気に幸福で満ちて、素直な気持ちを言った。
「美雨、お前を愛してる。」
そう言って、美雨の額に口付けをした瞬間だった。
お嬢の体が光り輝いた。