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💜💛学生設定
深澤辰哉は、恋愛で負けたことがなかった。
高校ではちょっとした伝説で、
「ふっかに落とせないやつはいない」
そんな噂が、いつの間にか定着していた。
だからこそ、昼休み。
友達に肩を組まれて言われたその一言にも、余裕で笑えた。
「なあ深澤。
あの岩本照、落としてみろよ」
指さされた先にいたのは、岩本照。
筋肉が服の上からでも分かるほどで、
鋭い目つき、無口、近寄りがたい雰囲気。
おまけに――
「ヤクザらしいぞ」
「放課後、シメに行ってるって」
好き放題な噂が飛び交う、学校の要注意人物だった。
💜「へーーー…」
深澤は内心思う
正直、余裕。
むしろ燃える、くらいの感覚だった。
⸻
翌日から、深澤はずかずかと距離を詰めた。
💜「おはよ、ひかる!」
💛「え、あ……お、おはよう」
突然話しかけられ、岩本は明らかに戸惑っていた。
でも、逃げるわけでもなく、
困ったように目を泳がせながら、ちゃんと返事をする。
💜(……あれ?)
人を寄せつけないタイプだと思っていた。
けれど、岩本の反応はどこか不器用で、
少しだけ、嬉しそうにも見えた。
友達がいないからだろうか。
深澤の声かけを、拒まなかった。
それが、ほんの少しだけ、胸に引っかかった。
⸻
決定的だったのは、ある日の放課後。
屋上で風に吹かれながら、
ひとり、タピオカを飲んでいる岩本を見つけたときだった。
ストローを咥えて、
空を見上げて、静かに笑っている。
💜(……なに、その顔)
胸の奥が、きゅっと鳴った。
その後、噂の真相を確かめるため、
深澤はこっそり岩本のあとをつけた。
――向かった先は、喫茶店。
薄暗い店内の隅で、
岩本はひとり、チョコケーキを前に座っていた。
フォークで少しずつ切り分けて、
大事そうに、味わうように口に運ぶ。
💜(は?……かわいすぎだろ)
思わず、頭を抱えた。
やくざ?
シメ?
全部、嘘じゃん。
⸻
次の日。
深澤はコンビニでチョコを買った。
💜「はい、ひかる」
差し出した瞬間、
岩本は一瞬、固まったあと――
ぱあっと、花が咲くみたいに笑った。
今まで一度も見たことのない、
柔らかくて、無防備な笑顔。
💛「いいの?……ありがとう」
その一言で、深澤は悟った。
ああ、だめだ。
これはもう、ゲームじゃない。
落とすつもりで近づいたのに。
気づいたら、心のほうが先に持っていかれていた。
💜(俺のほうが……完全に落ちてるじゃん)
⸻
それでも、深澤は言えなかった。
最初が「遊び」だったこと。
余裕で始めた恋だったこと。
岩本が大切にしているこの時間を、
壊したくなかったから。
強面で、実は乙女で、
甘いものが好きで、
少し寂しがり屋なひかるを。
――本気で、好きになってしまった。