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光が満ちる。
音が途切れる。
思考だけが、静かに残る。
蒼真は、目の前の光景を冷静に捉えていた。
三人。
異なる角度から同時に迫っている。
一人は正面から拳を振り上げる。
一人は右側から回り込み、足元を狙う。
もう一人は後方から、確実に仕留める軌道に入っている。
完璧な連携だった。
(普通なら終わりだな)
そう思う。
だが。
(普通じゃない)
その言葉が、内側から浮かび上がる。
蒼真は、ゆっくりと息を吐いた。
焦りはない。
しかし、恐怖はある。
それでも、思考は妙に澄んでいた。
それぞれの攻撃。
それぞれの”当たる可能性”。
それが、手に取るように分かる。
(全部、当たる)
何もしなければ、確実に終わる。
蒼真は視線を巡らせた。
正面の男。
右側の男。
後方の男。
そのすべてに、意識を向ける。
(いけるか)
一瞬の躊躇。
しかし、その迷いはすぐに消えた。
(やるしかない)
蒼真は、目を見開いた。
「ーー全部、外れろ」
そして、光がさらに強くなる。
音は、完全に消える。
世界が静止したような感覚。
その中で、蒼真の思考だけが動いている。
三つの攻撃。
それぞれの”当たる未来”。
それを一つずつ切り離す。
ほんのわずかに。ほんの数センチだけ。
結果が変わるように。
そして、光が消える。音が戻る。
三つの攻撃が、すべて空を切った。
「な!?」
三人の動きが、一瞬止まった。
ありえない、という顔だった。
だが、蒼真は止まらない。
(今だ)
初めて自分から踏み込む。
正面の男へ向かって、一歩。
そして拳を握る。
(ーー当てる)
ただそれだけを強く思う。
「ーー当たれ!」
光が弾ける。
音が消える。そして。
拳が、男の顔面にめり込んだ。
鈍い音。
男の身体が、後方へ吹き飛び、瓦礫に叩きつけられた。
「…ぐっ」
苦しげな声が漏れる。
蒼真は自分の拳を見つめた。震えている。
だが、確かな手応え。
自分の意思で”当たる確率”を引き寄せた。
そのときだった。
「…すごい」
小さな声。
振り返ると、さっき助けた少女が立っていた。
まだ震えている。
だが、その目は恐怖だけではなかった。
「お兄ちゃん、すごい」
蒼真の胸が揺れた。
その言葉。
それは、今日初めて向けられた否定ではない言葉だった。
「下がってろ」
あえてぶっきらぼうに言う。
照れ隠しだった。
少女はこくりと頷き、後ろへ下がる。
「なるほど」
最初の男が、ゆっくりと歩み出た。
「守る対象があると、精度があがるか」
蒼真は眉を寄せた。
「感情が、能力を補強している」
仲間がやられても、まるで動揺していない。
むしろ状況を楽しんでいるように見えた。
「防御だけじゃない」
そして、口の端に笑みを浮かべた。
「攻撃にも使えるか」
その視線が、蒼真を貫く。
「完全に制御しているな」
蒼真の胸がざわつく。
「だからなんだ」
蒼真が睨み返すと、男は軽く首を振った。
「分からないのか?」
一歩近づく。
「お前は”対象”だ」
その言葉が、重く落ちる。
「”観測対象””選別対象”・・・そして」
男に目が鋭く細められる。
「回収対象だ」
「だから、その回収ってなんだよ」
苛立ちが混じる。
「簡単な話だ。お前のような”異常”は、管理されるべき存在だ」
「管理…?」
「そうだ」
男の話し方には抑揚がない。
ただ事実を述べているだけという口調。
「放置すれば、世界の均衡が崩れる」
(均衡?)
何を言っている。
ただの能力者だろ。
そう思う。でも。
さっき感じた、あの違和感。
何かが削れるような感覚。
それが、頭をよぎる。
「お前」
男が静かに言う。
「もう気づいているはずだ」
一歩踏み込む。
「使うたびに、何かが減っていることに」
蒼真の心臓が強く跳ねた。
言葉にできなかった違和感。
それをあっさり言い当てられた。
「…なんだ、それ」
声が震える。
男は答えない。
ただ、じっと蒼真を見ている。
その目は、まるで未来の結果を知っている者の目だった。
「来い」
男が再び手を伸ばした。
「ここで終わるよりは、マシだ」
妙な現実味はある。でも…。
「断る」
蒼真は、はっきりと言った。
迷いはない。
「そうか」
相変わらず抑揚のない話し方。
「なら、ここで壊す」
空気が張り詰める。
圧が一気に増す。
(来る)
蒼真は構えた。
もう迷いはない。逃げない。
ここで終わらない。
光を掴む。
音を断つ。
自分の存在を削りながら。
蒼真は、さらに一歩踏み込んだ。
それが、どれほど危険な行為かも知らずに。