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ruruha
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第六話 ①【 見張られている夜】
ワゴン車が着いたのは、都心から少し外れた場所にある、古びたビジネスホテルだった。
全国チェーンの、特徴の薄い外観。
目立たない立地。
正面の看板も、少し色褪せている。
「ここですか」
誉が思わず言うと、相良が前を向いたまま答えた。
「ええ。警察が協力を頼める場所です。派手ではないですが、今はそのほうがいい」
「派手さは求めてません」
「知ってます」
それならよかった。
車を降りると、夜気が頬に冷たかった。
ホテルの前は静かで、さっきまでの新宿の騒々しさが嘘みたいだった。
静かなのに、落ち着かない。
むしろ静かだからこそ、どこかから見られている気がする。
誉は思わず周囲を見回す。
駐車場。自販機。街路樹。
人影はない。ないのに、安心できない。
「北松」
隣でシオンが小さく言った。
「何ですか」
「今、振り向きすぎ」
「だって気になるでしょう」
「気持ちは分かる。でも、あからさまだと逆に“気づいてます”って教えることになる」
「じゃあどうしろと」
「普通にして」
「その“普通”が一番難しいんですよ」
相良がフロントで手続きをしている間、三人はロビーの隅で待つことになった。
夜中のロビーには、テレビの小さな音だけが流れている。
ニュース番組のキャスターが明るい声で何かを読んでいたが、内容は頭に入らなかった。
詩織はソファの端に浅く腰掛け、スマホを握りしめている。
シオンは立ったまま、入口が見える位置を選んでいた。
誉はそれを見て、妙に納得した。
この男は、ただ厄介ごとを面白がっているだけではない。
こういう時、自然に“何を見るべきか”を分かっている。
「……慣れてるんですか」
思わず聞くと、シオンがこちらを見た。
「何に」
「こういうの」
「どういうの」
「追われたり、見張られたり」
シオンは少しだけ眉を上げた。
「慣れたくて慣れたわけじゃない」
「……そうですか」
「でも、ゼロではない」
誉はそれ以上聞けなかった。
ゼロではない。
その言い方は、冗談みたいに軽くはなかった。
やがて相良が戻ってくる。
「部屋は二つ取れました」
「二つ?」と誉。
「男二人、女性一人が妥当でしょう」
「俺と北松?」とシオン。
「そうなります」
「嫌です」と誉は即答した。
相良とシオンが同時に誉を見る。
「なんで」
「なんで、じゃないでしょう。なんで自然に同室前提なんですか」
「今さらでは」と相良。
「今さらです」
「でも北松、もう二晩くらい一緒にいるじゃん」とシオン。
「回数の問題じゃないです!」
詩織が少しだけ笑いそうになって、でもすぐ真顔に戻った。
こんな状況でも、誉は自分がつっこみ役に回っていることに気づき、少し虚しくなる。
「安全面を考えると、バラけるよりまとまっていたほうがいい」と相良。
「分かりますけど」
「それに、あなた方は情報共有も必要です」
「分かりますけど……」
「じゃあ決まりだね」とシオン。
「あなたがまとめないでください」
結局、誉とシオンが同室、詩織が隣室、相良たちは同じフロアの別部屋という配置になった。