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【短歌】
昨日まで何ともなかったはずなのに今日の君だけまぶしく見えた
【短歌をテーマにした物語】
彼のことは、ずっと友達だと思っていた。
同じクラスになって二年目。席が近くなれば話すし、体育の授業では同じチームになることもある。テスト前にはノートを貸し借りするし、帰り道が一緒になれば、くだらない話をしながら駅まで歩く。
特別に仲がいいわけではない。
けれど、気を遣わずに話せる相手。
それが、私にとっての彼だった。
「おはよう、結衣」
月曜日の朝。
教室に入ると、窓際の席に座っていた彼が顔を上げた。
「おはよう」
私はいつもどおり返事をして、自分の席に鞄を置いた。
いつもどおりの朝。
いつもどおりの彼。
何も変わらないはずだった。
なのに。
「結衣、これ見た?」
彼が机の上に置いたスマートフォンを、私のほうへ向けた。
「何?」
「昨日の試合。最後の逆転、すごくなかった?」
彼は楽しそうに話し始めた。
私は画面をのぞき込みながら、相づちを打った。
そのとき、ふと気づいた。
彼の横顔が、いつもより近くに見える。
笑ったときに少し細くなる目。
話に夢中になると、ほんの少し前のめりになる癖。
私が何か言うと、ちゃんとこちらを見て聞いてくれるところ。
知っているはずのことばかりなのに、なぜかひとつひとつが新鮮だった。
「……どうした?」
彼が不思議そうに私を見た。
「えっ?」
「なんか、ぼーっとしてない?」
「そ、そんなことないよ」
私は慌てて目をそらした。
心臓が、いつもより速く動いている。
どうして?
今までだって、何度もこんなふうに話してきた。
隣に座ったことも、顔を近づけてスマートフォンを見たことも、一度や二度じゃない。
なのに今日は、彼の声を聞くだけで落ち着かない。
「変なの」
小さくつぶやいた声は、彼には届かなかったらしい。
彼は「じゃあ、またあとで」と言って、友達のところへ行ってしまった。
私はその背中を見送った。
そして、自分の気持ちに気づかないふりをした。
*
その日の体育は、バスケットボールだった。
男女混合のチームに分かれ、簡単な試合をする。
彼は運動が得意だった。
いつもふざけているくせに、ボールを持つと真剣な顔になる。走るのも速いし、仲間への声かけもうまい。
それも、前から知っていた。
知っていたはずなのに。
「パス!」
彼の声が体育館に響く。
ボールを受け取った彼は、相手をかわしてゴールへ向かった。
シュートが決まる。
「よっしゃ!」
彼は仲間と手を合わせ、嬉しそうに笑った。
その瞬間、私は目を離せなくなった。
窓から差し込む午後の光が、彼の髪を照らしていた。
額に浮かんだ汗をタオルで拭いながら、彼はまた笑う。
いつも見ている笑顔。
いつも聞いている声。
それなのに、まるで知らない人を見ているようだった。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
私は思わず、手元のボールを強く抱えた。
ああ。
そういうことか。
ようやく、自分がどうして落ち着かないのか、わかった気がした。
彼がかっこいいと思った。
もっと見ていたいと思った。
自分以外の誰かに向けている笑顔なのに、目で追わずにはいられなかった。
それは、友達に向ける気持ちとは、少し違っていた。
*
放課後、私は友達の美咲と一緒に帰っていた。
「ねえ、美咲」
「ん?」
「好きって、いつ気づくものなのかな」
美咲は足を止めた。
「何それ。好きな人できたの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ふうん?」
疑わしそうな顔をされて、私は口をつぐんだ。
美咲は少し考えてから言った。
「人によるんじゃない? 最初から好きってわかる人もいるし、友達だと思ってたのに、ある日突然気づく人もいるし」
「ある日突然?」
「うん。昨日までは普通だったのに、今日はなんか違う、みたいな」
私は立ち止まった。
昨日までは普通だった。
今日はなんか違う。
まるで、今の自分のことを言われているみたいだった。
「……そっか」
「で? 誰なの?」
「だから、まだわからないってば!」
美咲は声を立てて笑った。
私は頬が熱くなるのを感じながら、再び歩き出した。
でも、もうごまかせなかった。
頭に浮かんでいるのは、たった一人。
体育館で笑っていた彼の姿だった。
*
翌朝。
教室に入ると、彼はまだ来ていなかった。
私は席に座り、窓の外を眺めた。
昨日のことを思い出すたび、胸の奥がむずむずする。
今日、彼に会ったらどうしよう。
いつもどおり話せるだろうか。
目が合ったら、ちゃんと笑えるだろうか。
そんなことを考えている自分が、少し恥ずかしかった。
「おはよう、結衣」
聞き慣れた声がした。
私は反射的に振り向いた。
彼が鞄を肩にかけたまま、笑っている。
「昨日の体育、最後の試合、惜しかったな」
「う、うん。そうだね」
「今日の昼、購買行く? 新しいパンが出るらしいよ」
「……行く」
「よし。じゃあ一緒に行こう」
彼はそう言うと、自分の席へ向かった。
たったそれだけだった。
いつもどおりの会話。
いつもどおりの笑顔。
なのに私は、しばらく返事の余韻に浸っていた。
今日も、彼がまぶしく見える。
昨日だけの気の迷いじゃなかった。
きっと明日も、彼を目で追ってしまう。
彼が誰かと笑っていたら、気になってしまう。
名前を呼ばれたら、嬉しくなってしまう。
私は机に頬を寄せ、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「……好き、なのかな」
答えは、まだはっきりとは出せない。
告白する勇気もないし、これからどうすればいいのかもわからない。
ただ、昨日まで何とも思っていなかったはずの彼が、今日はこんなにもまぶしい。
それだけは、もう否定できなかった。
窓の向こうでは、秋の空が澄んでいた。
いつもと同じ教室。
いつもと同じ朝。
でも、私の世界は昨日とは少しだけ違っていた。
恋は、もっと劇的に始まるものだと思っていた。
運命の出会いがあったり、忘れられない言葉をもらったり。
けれど私の場合は、何も変わらない毎日の中で、たった一人の見え方が変わっただけだった。
昨日まで何ともなかったはずなのに。
今日の君だけ、まぶしく見えた。
そして私は、明日もきっと、君を探してしまう。
コメント
1件
あああ〜!!これ、胸がきゅんきゅんしすぎてやばいよ😭💕!!! 「昨日まで何ともなかったはずなのに今日の君だけまぶしく見えた」っていうタイトルがもうエモすぎて、最後に回収される感じ、天才か?!ってなった✨ 体育館で彼がボール持ってるシーン、光が髪に当たってる描写で「あ、好きなんだ」って主人公が自覚するところ、恋する人のあるあるすぎて共感したよ…🥺 「好きって劇的に始まるもんじゃなかったんだ」っていう気づき、すっごくわかる。日常の中の小さな変化に気づくのが本当の恋なんだよね。続き絶対読みたい!😭🌸
羊と亀のお遊戯会
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奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し
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