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手をギュッと握り締める。
「もう優人とは別れます。穏便に別れてくれるんだったら警察にも言いません。その変わり、もう二度と関わらないでください」
怖い、怖い。でも逃げちゃダメだ。
隣には椿さんも居てくれるから。
「はぁ?本気か!?」
彼は目を見開いた。
「本気です」
私の全く動じない態度に、彼はその後何も言わなくなった。
椿さんに立ち会ってもらいながら、必要最低限の荷物をカバンに詰め込む。
「今日はこんな状態じゃ危ないから。どこかに避難しましょう。彼もまだ興奮しているし」
そう彼女(彼)が提案をしてくれた。
部屋から出る時に「また荷物を取りに来ます」そう告げたが、優人からの返事は聞けなかった。椿さんと一緒に家を出る。
「桜ちゃん、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれる椿さん。
「はい、大丈夫です」
ハハッと笑うも、急な展開すぎて頭が回らない。
そして殴られたところと柵にしがみついていた手のひらと腕が痛い。
「今日は何も考えないでゆっくり休みましょう。ちょっと待っててね?」
そう言って、椿さんは誰かに電話をかけている。
「えっ?えぇ。私は別に……。ちょっと待って!はいっ、桜ちゃん。遥さんよ?」
遥先輩!?
「もしもし?」
<もしもし桜?大丈夫!?事情は《《蒼》》から聞いたから。本当は、私の家に泊まらせてあげたいんだけど……。ごめんね。子どもの具合がまだ悪いし、夫もいるし。寝るところがなくて……。《《弟》》のところで良かったら私の居た部屋が一部屋空いているし。一応、安全だから泊ってくれていいから!」
蒼《あおい》さん!?遥さんの弟さん?
私、面識ないけど、どこにいるのかな。
「あの、弟さんって……?」
<あぁ。そっか。ごめん。言ってなかったかもしれないけど、《《椿》》は私の《《弟》》なの!>
椿さんは遥さんの弟さん……?
「えええええー!!そうなんですか!!?」
チラッと椿さんを見る。
椿さんは腕を組んで、うんと頷いた。
「でもでもっ。迷惑がっ。ビジホとかカプセルホテルとかもあるし……。大丈夫です」
これ以上迷惑をかけたくない。
「お金も多分大丈夫だと……」
財布の中を慌てて見る。
えっ、お札がなくなっている。
どうして?優人の仕業?
そうだ!ATMがあるっ!
そこでお金を下ろせば……。
あっ、カード類は全部取り上げられてるんだった。忘れてた。
「桜ちゃんは、私の家に来るの嫌?」
椿さんが何かを察してくれたらしく、声をかけてくれた。
「嫌じゃありませんっ、逆に嬉し……」
あっ、本心が出てしまった。
<じゃあ、決まりね!明日は休みだから、蒼の家に行くから!そこで今後について考えよ?ちょっと蒼に代わってくれる?>
蒼って椿さんの本名なのかな?
「もしもしお姉ちゃん?」
<あんた、桜になんかしたら私が許さないからね!>
「はぁ?するわけないじゃない!」
最後は椿さんが怒って電話を切ってしまった。
「あの……」
本当にいいのかな。
「意外とここから私の家近いの。寒いけど、もうちょっと頑張れる?」
さっきまで怒っていたが、私には微笑んでくれる。
「はい」
じゃあ行きましょうと言う椿さんの後ろをついて行くしかなかった。
「うわぁ!」
何階建てだろう。私のアパートより高い。当たり前か。
「そんな驚かないで?高級マンションじゃないんだから」
クスっと笑っている椿さん。
椿さんからしてみれば高級マンションじゃないかもしれないが、田舎から上京して、ボロボロアパートにずっと住んでいたし、優人のアパートも二階建ての1LDKだったしそんなに広くはなかった。
オートロックを開けて、エレベーターに乗る。
九階で降り、椿さんの後ろをついて行く。
とある部屋の前で止まり、カギを開けたあと「どうぞ?」と声をかけられる。
いきなり人が来ても、部屋の中を案内できるの?
私だったらちょっと待っててくださいって言って、散らかっている物を隠そうとするけどなぁ……。
彼女(彼)に言われるがまま、玄関の中に入る。
「お邪魔します」
廊下を歩き、リビングへ。
「うぁぁぁぁ。広い……。キレイ」
驚いている私に
「うーん。一人で暮らしていると広いって感じるかもしれないけど、前までお姉ちゃんと一緒に住んでたから?」
そう言って椿さんは荷物を置いた。
大きいテレビと大きいテーブル。その周りに大きなソファー。
物などは散乱していない。綺麗すぎて、生活感のない部屋だった。
「お姉ちゃんが居た時は結構散らかっていたけど。居なくなってから、物も少なくなったし。私もそんなに物欲がなくて。ご飯は外で食べてきちゃうか、買ってくることが多いし。帰ってきてお風呂に入って、ちょっとゆっくりして寝るだけ……みたいな生活よ?」
呆然と立っている私を見て、上着預かるわね?と私の上着をハンガーにかけてくれた。
「あっ、洗面台で手を洗って来て?寒かったわよね。温かいお茶を出すから」
「あっ、あの、気を遣わないでください……」
「私も温かいお茶、飲みたいの」
椿さんは気にしないでと言う。
外から来たし、汚い柵に掴まっていたし、洗わなきゃ椿さんの部屋が汚れちゃう。
教えてもらったバスルームへ向かい、手を洗う。
美容品がたくさん置いてあった。
私よりやっぱり女性らしいなぁ。
タオルの畳み方とかもきちんとしているし……。
リビングへ戻るとお茶が入っていた。
「私、おススメの紅茶だから。一緒に飲みましょう?」
「はい」
ひと口飲む。
「おいしい……!」
身体が冷えていたせいか椿さんが淹れてくれたからか、すごく美味しく感じる。
「良かった。ちょっと笑ってくれた」
私の顔を見て椿さんが呟いた。
「桜ちゃんは笑ってる方が可愛いわよ?」
そう言われ、ドキッとした。