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#R15
(株)姫神V
432
#日記
QuartoMew
3,343
華
219
113
23話 「残されたもの」
──────結翔side
夜の山道を、一人で歩いていた。
ザッ……
ザッ……
足音だけが、やけに大きく聞こえる。
さっきまで隣にいたアイツの姿は、もうどこにもない。
結翔「…………」
何も考えたくなかった。
なのに、頭の中から離れない。
あれは……本当のことなのだろうか。
信じられない。
当たり前のようにそこにいた人が、
急に姿を消して――
もう、二度と会えない。
そんなことが、本当にあるのか。
結翔「…………」
足が止まる。
力が抜けるように、その場へ膝をついた。
ドサッ……
冷たい地面の感触が、制服越しに伝わってくる。
結翔「…………雫さん」
返事はない。
分かっている。
もう、返ってこない。
それでも――
結翔「……まだ、言えてなかったから……」
震える手を握りしめる。
結翔「……今、改めて言う」
結翔「これが……最初で最後だから」
結翔「……ちゃんと聞いててくれ」
風が吹く。
サァァ……
木々が揺れる。
まるで誰かが、黙って聞いているようだった。
結翔「……俺は、あん時……」
結翔「多分、呑気に過ごしてたと思う」
結翔「何も考えずに……ただただ毎日過ごして……」
結翔「学校行って……帰って……」
結翔「それで……また明日も普通に会えるって……」
結翔「勝手に、そう思ってた」
結翔「…………」
結翔「雫さんは……あの時何してた?」
結翔「俺には分かるはずがないことだと思う」
結翔「でも……」
あの廃墟で見た光景が、脳裏に浮かぶ。
結翔「……あの光景を見たら」
結翔「なんとなく……分かった」
結翔「あの男と……何かあったんだろ」
結翔「…………」
結翔「俺……雫さんに助けてもらったよな」
結翔「何も知らなかった俺に……手を差し伸べてくれて」
結翔「……あの時の恩を」
結翔「いつか、返したかった……」
拳に爪が食い込む。
結翔「……けどッ」
結翔「それすら……出来なかった……」
結翔「…………っ」
結翔「なんでもっと早く返さなかった……!」
結翔「なんで……!」
結翔「俺は……なんでいつもこう……ッ!」
声が夜の山に響く。
けれど、返ってくるのは木々のざわめきだけ。
結翔「…………」
結翔「……こんな、俺でも……」
結翔「……やれんのか……?」
胸元を掴む。
結翔「心に……変な感情が芽生えてきて……」
結翔「……なんか、おかしいんだッ……」
結翔「今まで……こんなこと……考えたことなんてなかったのに……」
結翔「…………」
結翔「何も出来なかった俺を……ッ」
結翔「……叱ってくれよ」
結翔「雫さん……」
結翔「俺……何も出来なかった……」
結翔「……何も……」
しばらく、結翔は俯いたまま動かなかった。
やがて――
結翔「…………ごめん」
小さく呟く。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
ザッ……
涙を拭う。
結翔「……行かなきゃだな……待たせちゃ悪いし」
───病院に。
雫さんを待っている人たちがいる。
結翔「…………」
重い足を引きずるように、山道を下っていった。
──────
───病院。
カチャ……
扉を開ける。
結翔「…………」
まだ何人かの患者が残っていた。
結翔の姿を見た瞬間――
患者「……!」
患者「!やっと戻ってきたのね!」
患者「坊や!結構待っていたから心配したぞ!?」
患者たちが駆け寄ってくる。
患者「雫さんは!?」
患者「見つかった!?」
患者「どこにいるんだ!?」
結翔「…………」
一斉に向けられる視線。
期待。
安堵。
その全部が――
苦しかった。
結翔「…………」
口を開く。
けれど、声が出ない。
患者「……?」
結翔「…………」
拳を握る。
ギュッ……
結翔「……見つかった」
患者「……!」
患者「本当ですか!?」
患者「よかった……!」
結翔「…………」
その言葉を聞いても。
結翔は、何も喜べなかった。
患者「それで……雫さんは?」
結翔「…………」
喉が詰まる。
言いたくない。
でも――
言わなければならない。
結翔「……雫さんは」
一度、目を伏せる。
結翔「……もう、ここには戻ってこない」
患者「…………え?」
患者「どういう……意味ですか?」
結翔「…………」
結翔「……雫さんは」
結翔「もう……亡くなってる」
──────
シン……
病院の中から、音が消えた。
患者「…………」
誰も言葉を発さない。
患者「……嘘……」
患者「だって…………」
患者「先生……いつも……」
結翔「…………」
患者「……なんで……」
結翔「…………俺にも、全部は分からない」
結翔「ただ……」
結翔「俺が見つけた時には……もう……」
言葉が続かなかった。
患者「…………」
一人の患者が、俯く。
患者「……雫先生……優しかったのに」
結翔「…………ああ」
患者「いつも俺たちのことばっかりで……」
患者「自分のことなんて、全然……」
結翔「…………」
その言葉が胸に刺さる。
結翔「……そうだな」
結翔「本当に……そうだった」
結翔「だから……」
結翔「俺も……もっと早く……」
言葉が止まる。
結翔「…………」
患者「…………」
結翔「……ごめん」
患者「…………」
結翔「俺がもっと早く気づいてれば……」
結翔「何か……出来たのかもしれない」
患者「……あなたのせいじゃないのよ……自分を責めたらダメよ」
結翔「…………」
それでも、結翔は顔を上げられなかった。
結翔「……雫さんが最後まで何を考えてたのか」
結翔「俺には分からない」
少し間を置いて。
結翔「……でも」
結翔「雫さんが、誰かを助けようとしてたことだけは……分かる」
静かな声だった。
それだけ言って――
結翔は深く頭を下げた。
結翔「……伝えるのが遅くなって、ごめん」
誰も責めなかった。
ただ、静かな悲しみだけが、その場に残った。
──────
病院を出る。
ガチャ……
扉が閉まる。
結翔「…………」
夜の空気が、頬を撫でる。
昼間と同じ街。
見慣れた道。
見慣れた建物。
なのに――
全部が、知らない場所みたいに見えた。
結翔「…………」
空を見上げる。
雲の隙間から、月が覗いている。
結翔「…………雫さん」
当然、返事はない。
結翔「……俺」
結翔「ちゃんと、返せなかったな……」
視線を落とす。
ザッ……
一歩、歩き出す。
ザッ……
ザッ……
夜道を、一人で歩いていく。
頭の中に浮かぶのは、今日見たものばかりだった。
あの廃墟。
あの男。
そして――
宙の言葉。
『この世界の真実を知ったら、貴方はどう変わってしまうんだろうね』
結翔「…………」
結翔「……変わるわけねぇだろ」
そう呟いた。
けれど――
自分自身でも、その言葉を信じられなかった。
そして、ふと。
ある人物の顔が頭に浮かぶ。
結翔「…………蓮」
足が止まる。
結翔「……お前」
結翔「もしかして……」
あいつが学校に来なくなった理由。
何も知らずに、ただ「最近来ねぇな」と思っていた。
でも――
結翔「…………」
今日、世界の裏側を知った。
なら。
結翔「……お前も、何か知ってんのか?」
風が吹く。
ヒュゥ……
結翔「…………」
しばらく夜空を見上げる。
そして――
結翔「……俺は何も知らなすぎる」
拳を握る。
結翔「……だから」
結翔「知ってやる」
その目には、もう以前の結翔にはなかったものが宿っていた。
怒り。
後悔。
そして――
真実を知りたいという、強い意思。
結翔「……全部」
結翔「俺が知らないこと……全部」
そう呟いて。
結翔は、再び歩き出した。
ザッ……
ザッ……
その背中を――
夜の月だけが、静かに照らしていた。
──────
コメント
1件
結翔くんの「言えてなかった」って言葉が、胸にずっしり来たよ……。雫さんの死を伝えるシーンも、患者さんたちの反応も、全部がリアルで苦しかった。最後「俺は何も知らなすぎる」って立ち上がるところ、彼の中で確かに何かが変わったんだなって思えた。この話の空気感、ちゃんと感じさせてくれてありがとう🥀