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目が覚めた。目に力が入り、視界を覆う、瞼の暗闇が見えた。
意識が無く、存在が無かった自分という物が戻る。
横たわっている。
グググと瞼を震わせつつ、自然に目を開く。
頬と手のひら、それから胴と下半身の右面の幾らか少しに、床の木の板の冷えを感じる。
細い板が2本置きに交差して並び、正方形の1ブロックを作るタイルが連続している。1枚ずつ、異なった汚れ模様と、膨らみを帯びて。
目に入ったのは、それと、立方体の空間を無機質に並べる、木製の有機質な白いロッカー。
視界の半分をそれが、もう半分を床の木が。
首を傾げてこちらを覗いていた。
眉間と腕に力を入れて体を持ち上げた。とても重い。
服はいつも着ていたもので、違和感無く既に体に馴染んでいる。
靴も同様である。3、4ヶ月ほど前に拵えた、黒と青と白色のハイトップシューズである。
床に溶け着いた膝はそのままに、床を腕で押したまま、程よく、短い、深いため息を着いた。
立ち上がって見れば、立ち眩みでも起こしたように重心が抜けてふらっとする。相当の間意識が無かったに違いない。
取り戻したばかりの意識で、ぼんやりとしているので、まだ取り乱していないが、そろそろと周りを見渡して、ここがどこであるかを考えた。
目を覚ましてすぐから今まで目にしたこの景色の持ち主と言ったら、俺自身の卒業校である小学校に違いなかった。
金浜市立慶年小学校である。
俺は九でここに越して来、もう三年間を修了して卒業した。ただ、十の時にこの学校の中で始めた書道の習い事が、十四か十五まで続いたり、昨月は、民間従事者として赴いた金浜市長選挙会場がここだったりとかして、卒業しても、存外、記憶に古くないものである。それもあってか、と言うよりかは、自分の中で記憶している「小学校の中の景色」と言うのは、ここか、引っ越してくる前の小学校の、2つのみであって、そのうち引っ越してくる前の方は、記憶も掠れて来ている。自分の中での「小学校」は、ほぼ、こっちになってしまっている訳である。
教室の姿は変わらない。黒板と教卓も、壁と床も、机と椅子と、配膳台も、それらの大きさと位置と見た目も。全部。
ただし、その当時の俺にとっての物は今の俺にとって小さいはずであるが、それらが、今の俺の方にとって普通な大きさらしい。
自分が縮んだか?とか考えてみたが、それはない。
タブン。
周りには、全く見知らぬひとが何人かいる。
あ、でも、見たことのある顔も___
___チャイムの音である。
全員がすぐにスピーカーを凝視した。
俺もそうした。
少しの間を置いて、放送が入った!
「ここは仮想現実です。これから順に課題が課せられますので、解決してください。一定間隔で鬼が現れ、それまでにできなければ食べられてしまうので、ご注意ください。皆さんは拉致されています。くれぐれも食べられないようにしてください。」
「ん?」
流れた放送を、聞けば聞くほど、後の言葉が、頭の中心で、ぼやけて散っていく。
現に、放送終了のチャイムが鳴ってから数秒経った今、初めから終わりまで、何一つ覚えていない。
唯一理解できたかも、と言うのは、一定間隔で鬼が現れ、それに食べられる、と言うことである。
教室がザワっとした。折り重なった何人かの嘆きが聞こえる。
案外、取り乱している者はおらず、その全てはどよめきである。
しかし、あとものの数秒で、この教室は、音の殺された、戦慄の処刑場と化することになるのである。