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個性把握テストの結果。1位が八百万百ちゃん。2位が轟焦凍くん。
この2人は推薦入学で入学したらしい。ということは、私と同じく試験を受けずに雄英高校に来たということ….やっぱり優秀なのだろう。
「百ちゃん」
「? どうしましたの?愛嶋さん」
「あのね、…..百ちゃんは、推薦入学だったって聞いて」
「えぇ。そうですわ」
百ちゃんは自慢する様子も、我々を見下す様子も無かった。椅子にすわったまま、堂々と私を見ている。
「でも、当然だと思っておりますの。私は学ぶことが好きですし、個性は学べば学ぶほど幅が広がりますわ」
私は、ヒーロー側が将来に備えて特例で入学させて貰った。私自身はなんにも努力してないのに。…..やっぱり、百ちゃんみたいに私も堂々となんてしていられないな。
「もう1人、推薦入学の方がいらっしゃいますの。……轟さん。お隣の席なので沢山お話したいのですけど…..」
本人があんな感じじゃなぁ…..。
「……私も、個性把握テストの後話しかけてはみたんだけどさ」
「愛嶋さんも、轟さんと仲良くなりたいとお考えなのですね?!」
う、うん。嬉しそうだね、なんか嬉しそうだね?
「そうですよね!親御さんが素晴らしいからとかではなく、彼自身とお話してみたいですよね?!」
「う、うん」
なんだなんだ、すごい興奮してる、
「芦戸さん!」
「なになにヤオモモ?!もしかして恋の予感掴んだ?!」
「はい!掴みました!」
こいのよかん???
「どうやら愛嶋さんが轟さんと仲良くなりたいそうです!」
「おぉ!さすが!やっぱモテ男は違う!さてさて愛嶋!どうアタックするか決めてるの?」
「いやいや待って待って、私は恋とかそう言うつもりじゃ、」
「大丈夫大丈夫!私たちに任せて!」
いや、違う!本当に違う!恋愛なんて今はそれどころじゃないし、新しい環境に慣れるのに必死だし、
「まずは愛嶋さんの素敵なところのアピールからですわ!」
「そのために、愛嶋に1日密着するのだ!」
いやだから本当に、
「帰宅後はどうしよう…..そうだ!愛嶋ひとり暮らしでしょ?麗日ー!」
「どしたん?」
三奈ちゃんはお茶子ちゃんに耳打ちをして、
「よしきた!まっかせとき!」
張り切ってしまった。
その日は1日中、三奈ちゃんと百ちゃんの視線を感じた。帰り道はお茶子ちゃんが一緒で、今夜は泊まるらしい。急に決まったので、部屋も汚いし布団もお客さん用無いと言ったら、一緒に寝るから問題ないと言い出した。こうなってしまっては止められない……気がする。
本当に嫌なら断ればいいのだが、これは轟くんだけでなく、お茶子ちゃん達にも私のことを知ってもらういい機会だし。それに、あんなに張り切ってる姿を見ると無下にできない。
「家着いたけど…..ホントに片付けてないよ?」
「大丈夫大丈夫!私も部屋汚いし!」
うーん….そう?
「じゃあ….どうぞ?」
「うん!お邪魔します!」
アパートの隅っこの部屋。近くにはプロヒーローの事務所もあり、万が一ヴィランが誘拐しようとしても対応出来るようになっている。
部屋は1R。
玄関を入って右手に見えるのはキッチン。キッチンからちょっと左手にあるのがトイレに繋がる扉で、その向こうに脱衣所に繋がる扉。壁には本棚。広いスペースにはマットレスとちゃぶ台とテレビ。あとはクローゼット。
「家具控えめやな?」
「こだわる方じゃないし…..荷物、そこ置いていいよ」
「ありがと」
お茶子ちゃんに座布団を出して、トイレと脱衣所を案内した。
「色々見てい?」
「面白い物はないと思うけど…..いいよ。
お茶子ちゃん麦茶で良かった?」
「うん!お気遣いなく!」
お茶子ちゃんは私の本棚を見ながら、ふんふんと言っている。私の好みとかを把握しているんだろう。
恥ずかしい気もするが、私は自分で発信することが苦手だから、むしろ知ろうとしてくれるのはありがたい。
「はい。どうぞ」
麦茶と、軽いお茶菓子を出す。さて….今夜の夕飯はどうしようか。料理が得意って訳じゃないけど、しなきゃいけないなら仕方ない。
まずはご飯を炊いて…..鶏ガラスープは冷蔵庫にあるのを温めよう。おかずはどうしようかな….。あぁ、鶏もも使おう。6分レンジで温めて、蒸し汁は別の容器に。皮を取って、お肉をほぐす。皮は千切りにして、ネギを微塵切り。砂糖と蒸し汁とお水。それに醤油とごま油を混ぜて、白いりごまと….あ、そうだ。
「お茶子ちゃん苦手な食べ物とかある?」
「うぅん!特になし!」
素晴らしい。
さっきのに鷹の爪を加えて、微塵切りにしたネギとニンニクを少し。鶏肉を入れて….あとは冷蔵庫に入れておくだけ。
お茶子ちゃん今おやつ食べたところだし、ご飯はもう少しあとでも良さそうだな。
「お茶子ちゃん、パジャマとか私の服でいい?見た感じサイズ差そんなに無いと思うんだよね。Mなんだけど」
「貸してくれるの?」
「お茶子ちゃんも急に決まったことだしさ」
「ありがとう。助かるわ。…..急に押しかけちゃってごめんな?」
「ううん。……お茶子ちゃんとゆっくり話せるし。全然いいよ」
予期せぬお泊まりだけど、これはこれでいいよね。
夕飯とお風呂の準備を終えた私は、お茶子ちゃんの隣に座ってテレビを観ていた。
「急なんやけどさ…..」
「うん?」
「私、出身が三重県なんよ。ゆうちゃんも、その辺やったりする?」
「え?近いね…..私岐阜県なの。途中で静岡県に引っ越してきたんだけど、…..訛ってる?」
「いやぁ?イントネーションとかがちらほらって感じ?ゆうちゃん、そんなに喋る方じゃないから気づかんかったけど、なんとなく」
方言….直そうと思ってたんだけどな。
「変じゃないんじゃない?むしろチャームポイントだよ!ゆうちゃん知らない?方言って可愛いんだよ!
あ、この言い方だと私も自分が可愛いって思ってるみたいになっちゃうな。
うーん….」
チャームポイント…..。
「確かに…..お茶子ちゃんの方言、可愛い」
「えっ?!や、面と向かって言われると照れるなぁ、」
可愛い。
「ありがと。…..本当は引っ越した時、周りに変な印象持たれたくなくて、頑張って標準寄りにしようと思っとったんよ。…..やけど、なんか、心が軽くなったって言うか」
人間は自分と違うものを避けがちだ。特に日本はそういう傾向が強い。だから、方言とか出さないようにしてたけど。
私のままでいいんだって、お茶子ちゃんは言ってくれた。…..嬉しい。
「うんうん!ゆうちゃんはクールだから、そういう一面があると特にギャップ萌えやよ!」
いや、そういうのは考えてなくて、
「これもメモしとかんといかんね!」
さっきからメモしてたのはそれか!
夕飯の時間になったので、お茶子ちゃんとご飯を食べた。引っ越して来て、家族団欒の時間が減ったからか、とっても楽しかった。雄英高校には学食があるけど、なかなか輪に入っていけなかったから、とっても楽しい。
お茶子ちゃんは美味しい美味しいと言って食べてくれた。嬉しいな。お風呂はさすがに別々。お茶子ちゃんといると、時間があっという間だ。
マットレスに、2人くっついて横になった。
「そっち、布団ある?」
「あるよ。ゆうちゃんも、遠慮しとらん?」
「うん。大丈夫」
私は3月の早生まれだったから、同級生が年上に見えることは時々あった。今のお茶子ちゃんも、もし姉がいたらこんな感じかな、と思うと、なんだか心がじんわり暖かくなる。
次の日。
昼休みにヤオモモや三奈ちゃん、お茶子ちゃんが集まって会議をしている。どうやら私のことについてのようだ。
「あ!愛嶋!来て来て!轟に伝える内容、やっとまとまったんだ!」
え?
「ほらほら!轟に伝えに行かなくちゃ!」
三奈ちゃんは私の右手を引っ張って、轟くんの元に走って行く。ヤオモモとお茶子ちゃんも一緒だ。
今更違うとも言えないし、轟くんには悪いけど聞いてもらおう….。
「いたー!轟っ!」
「なんだよ」
学食を食べ終わったであろう轟くんが、廊下を歩いていた。ここで逃したらいけないと思ったのだろう。三奈ちゃんは、すぐ終わるからよく聞いて!と、ノートを開いて話しだした。
何も廊下で言わなくても….。
「愛嶋のいい所!」
「よっ!」
お茶子ちゃんが合いの手を入れて、ヤオモモがクラッカーを鳴らす。随分楽しそうだな….。
「その1!とってもクールなのに方言が可愛い!」
「岐阜県出身!」
昨日のだ。
「その2!部屋が綺麗で料理が上手!」
「美味しかった!」
上手じゃないよ、調べたら出てくるレシピだよ、
「その3!授業も真面目で字が綺麗!」
「ノートも見やすいですわ!」
そう思ってたんだ、
「その4!可愛らしい見た目で守りたくなる!」
「A組の癒し枠!」
そうなの?
「その5!峰田のセクハラにも動じない!」
「肝が据わってますわ」
いや、それはセクハラされる要素が少ないからじゃ…..
「その6!個性が綺麗!」
「虹だってお手の物!」
「なぁ」
轟くんが口を開いた。
「もういいか」
そりゃそうだ。轟くんも暇じゃないし、三奈ちゃんが頑張ってくれたことはわかってるけど、轟くんからしたら鬱陶しいだけだよ。
「その7!」
続けるの?!
「実は仲間想いの優しい子!」
「皆さんとも轟さんとも、仲良くなりたいと思っていますわ!」
「恥ずかしがり屋な自分を変えようと頑張ってるんだよ!」
いや…..私はそんな優しくないし、….評価は嬉しいけど….。
「それがなんだよ。友達ごっこしたいなら他当たれ」
弾くような言い方に、三奈ちゃんもお茶子ちゃんも百ちゃんも、押されてしまった。私も圧倒されてしまった。….けど、少しでも私の思いが伝わるように頑張ってくれたんだよね。ありがとう。ここからは、私が頑張る番だ。
「轟くん」
「まだ何かあんのか」
「確かに、私の気持ちは鬱陶しいかもしれない。轟くんが1人で頑張りたいと思ってるのは感じる。私も今までそうだったから。でも、……周りに誰かいるのって、頼もしくて楽しくて暖かいの。…..轟くんも、気が向いたら、私たちを見て欲しいな」
一瞬、轟くんの目が大きくなった…..ように見えた。でも、すぐにいつもの表情になって。
「そうかよ」
背を向けて行ってしまった。私は、三奈ちゃんとお茶子ちゃんと百ちゃんに向き直る。
「ありがとう。頑張ってくれて」
「お礼なんていいよ。だって愛嶋、轟が好きなんでしょ?」
「いや違うよ」
「うそ?!」
「そんな!私はてっきり轟さんが好きなのかと、」
「いやクラスメイトとして仲良くなりたいと思ってるけどさ」
「とんだ勘違いを…..」
「元気出してヤオモモ〜」
うん…..誤解は解けたけど、なんか、やっぱり罪悪感が….。
4人で教室に帰って、私は席に着く。
「なんか、大変そうだったね」
響香ちゃん!
「まぁね。でも楽しかったよ。あの3人も楽しそうだったし」
「お茶子ちゃんとお泊まりしたんでしょ?いいなぁ〜!」
透ちゃん!
「うん。楽しかった」
「お料理、上手って聞いたわ。今度教えてちょうだい?」
「むしろ私が梅雨ちゃんに教えて欲しいくらいだよ」
轟くんに私を知ってもらう計画だった内容が、クラスのみんなにも広まっている。これを企画してくれた三奈ちゃんとお茶子ちゃんと百ちゃんには感謝しなきゃ。
これからみんなと1年過ごすことが、とっても楽しくなりそう。みんなのことも知りたいし。
轟くんには時間を取らせちゃったけど、轟くんのことも知れたらいいな。どうだろう…..話してくれるだろうか…..時間が経てば、
きっと…。