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## 第17話:共鳴のレゾナンス
マゼンタのガンダム――ヴィヴァーチェが飛び去った後の砂塵が、ようやく静まりを見せていた。
プロト・ウイングエックスのコクピット内で、ゼロ・ドラートは拳を操縦桿に叩きつけた。
「……スカしやがって! 助けてくれなんて一言も頼んじゃいねえぞ!」
相変わらずの悪態。だが、その声には困惑の色が混じっていた。
先ほどの岩場での共闘。言葉を交わしたわけではない。しかし、機体を通じて流れ込んできた感覚は、これまでのどんな戦いよりも鋭く、そしてどこか懐かしい「熱」を帯びていた。ガドルフの修繕のおかげで、ゼロ・システムはかつての暴走が嘘のように安定しているが、システムが弾き出す「最適解」のさらに先を行くマゼンタの機動は、ゼロのプライドを激しく逆なでしていた。
「ゼロ……あの子、また来る。そんな気がする」
「ケッ、二度と来るんじゃねえよ! 俺とこいつだけで十分なんだ」
ゼロはウイングエックスを起動させ、岩場を抜けて平原へと機体を進めた。
だが、運命の再会は、彼が思うよりも早く訪れる。
数時間後。夕闇が迫る荒野のオアシス付近で、ウイングエックスのセンサーが未確認の熱源を捉えた。
岩陰から音もなく滑り出してきたのは、あの鮮やかなマゼンタ色の機体――ガンダム・ヴィヴァーチェだった。
両者は互いに武器を構えることなく、一定の距離を保って停止した。
静寂。風が砂を巻く音だけが、マイク越しに聞こえてくる。
先に動いたのは、ヴィヴァーチェの方だった。
プシュッ、と小気味よい排熱音が響き、機体のハッチが開く。
それを見たゼロも、毒づきながら自分のハッチを開けて外に飛び出した。
「おい! 何のつもりだ、待ち伏せか!?」
ヴィヴァーチェの肩の上に、一人の少女が立っていた。
彼女はヘルメットを脱ぎ、脇に抱える。燃えるような赤い髪が、夕陽に照らされてさらに鮮やかに輝いた。その強気な瞳が、下から睨みつけるゼロを真っ向から捉える。
「……騒がしい男。命拾いした自覚がないのかしら」
鈴を転がすような、しかし凛とした声。
ゼロはカチンときて、思わず機体の脚部を駆け上がり、彼女と同じ高さまで詰め寄った。
「誰が命拾いしたって? 余計なお世話なんだよ! 俺は俺のやり方でやってたんだ!」
「その『やり方』で……その子を危険にさらすつもり? あなたの操縦、荒削りすぎて見てられないわ」
「なんだとぉ!?」
二人の間に火花が散る。ミラはコクピットの縁から、心配そうに、けれどどこか嬉しそうに二人を見守っていた。
しばらく言い合いが続いた後、少女はふっと視線を落とし、小さく息をついた。
「……セレスよ。この子の名は、ヴィヴァーチェ」
不意に名乗られたことに、ゼロは毒気を抜かれた。
「……ゼロ・ドラートだ。こいつはプロト・ウイングエックス。……お前、なんで俺たちを助けた?」
セレスの表情が、一瞬にして冷徹な戦士のものへと変わった。
「目的が同じだから。私は、ルカス・ギルモア……あの男が率いる軍を、この世から消し去るために戦っている」
彼女の口から語られたのは、過酷な真実だった。
ルカスの要塞には、今もなお多くの街の住人や、セレスの肉親――兄弟たちが囚われているという。彼らはただの捕虜ではない。MSの整備や、危険な実験の使い捨て要員(デコイ)として、日々こき使われているのだという。
「あいつらは人間を『部品』としか思っていない。私の兄弟も、街のみんなも……あそこで死ぬのを待つだけの毎日を強いられている。そんなの、許せるはずがないでしょう?」
彼女の拳は、白くなるほど強く握られていた。
現在は、志を同じくする良心的なヴァルチャーたち――「自由の風」と呼ばれる一団のもとで身を寄せ、反撃の機会を伺っているのだという。
「……あいつ、ルカスの野郎……。そこまで腐ってやがんのか」
生意気な口を叩いていたゼロも、この時ばかりは沈黙した。
自分もまた、かつては「部品」のように扱われていた。セレスの怒りは、他人事ではなかった。
「……ふん、だったら話は早い。あいつをぶっ飛ばす理由が一つ増えただけだ」
「強がりね。でも……一人で戦うよりは、少しはマシかもしれないわ」
セレスが初めて、微かな、本当に微かな笑みを見せた。
だが、この時、彼らはまだ知らなかった。
自分たちが対峙しようとしている絶望が、どれほど巨大な影となって近づいているのかを。
同時刻。メギド要塞、最深部。
冷徹な光が満ちる司令室で、ルカス・ギルモアは巨大なモニターを眺めていた。
「……プロト・タイプと、ナンバー3が接触したか」
ルカスの横には、漆黒のガンダムのパイロットたちが並び、新たな調整を受けた機体のデータをチェックしている。モニターに映し出されているのは、ウイングエックスとヴィヴァーチェの解析図ではない。
それは、二機のエネルギーを「共鳴」させることで完成する、**最終破壊兵器の設計図**だった。
「泳がせておけ。共鳴率が限界に達した時、奴らは自らの力で、自らの大切なものを焼き払うことになる。……これこそが、ガンダムという呪いの真髄だ」
ルカスの不気味な笑い声が、金属質の壁に反響する。
要塞の地下では、無数の人々が泥にまみれ、巨大な歯車の一部として動かされていた。その中には、セレスが探している兄弟の姿もあった。
荒野で少しずつ歩み寄り始めたゼロとセレス。
しかし、その上空を、漆黒の死神たちが音もなく滑り始めていた。
彼らが次に迎えるのは、これまでの「小競り合い」とは次元の違う、本物の地獄。
最強の敵が、その牙を剥こうとしていた。
**次回予告**
再び出会った3人
メギト要塞の現状、そして過去を聞きゼロは驚愕する。
そんな夜の砂上はいつもより静かだった。
次回、『砂上の安らぎ』
**「少しは休憩させろよ、俺だって疲れるんだっつーの」**
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