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## 第18話:砂上の安らぎ
砂漠の夜は、すべてを拒絶するように急激に温度を下げていく。
岩陰に身を潜めたプロト・ウイングエックスとヴィヴァーチェの巨体は、月光に照らされて静かな獣のように佇んでいた。その足元では、小さな焚き火が爆ぜる音だけが響いている。
「……ゼスト、っていうの。私たちが身を寄せている場所の名前」
セレスは膝を抱え、焚き火の炎を見つめながらポツリと漏らした。
↑「遅れました、!セレス&ヴィヴァーチェのイメージ」
先ほどまでの激しい言い合いが嘘のように、彼女の横顔にはどこか陰りがある。赤い髪が夜風に揺れ、炎に照らされて微かに煌めいていた。
「ゼスト……? 聞いたことねえな。どっかの野良犬ヴァルチャーの群れか?」
ゼロは相変わらずの生意気な口調で、拾ってきた枯れ枝を火の中に放り込んだ。だが、その視線はセレスの表情を伺っている。
「失礼ね。ゼストは、帰る場所を失った人たちの『家』よ。ルカスの要塞から逃げ延びた者、街を焼かれた者……あそこには、奪われた側の人たちが集まっている。移動型の巨大要塞だけど、中にあるのは兵器じゃなくて、人々の生活なの」
セレスの声には、確かな慈しみと、それを守らなければならないという悲壮な決意が混じっていた。
「私はあそこの用心棒のようなもの。……ルカスたち悪党を殲滅して、囚われた私の兄弟や、ゼストの仲間たちの家族を助け出す。それが私の、この機体に乗る理由」
「ふん、正義の味方ごっこかよ。反吐が出るぜ」
ゼロが鼻で笑った瞬間、それまで静かに二人のやり取りを聞いていたミラが、ゆっくりと口を開いた。その声は、夜の静寂に溶け込むほどに穏やかで、しかし深い響きを持っていた。
「……セレスさんの心、とても温かい。……そこには、たくさんの悲しみと、それを包む優しさが満ちているのがわかるから……」
ミラのどこか浮世離れした、けれど核心を突く言葉に、セレスは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……あなたに何がわかるのよ。……でも、そうね。ゼストのみんなは、あんな世界でも笑おうとしているわ。だから私は、彼らの盾になりたいの」
強気な瞳を少しだけ潤ませ、セレスはぷいと顔を背けた。
「……言っておくけど、あなたたちを誘ってるわけじゃないから。勘違いしないでよね! 私一人の力で十分なんだから!」
絵に描いたようなツンデレぶりに、ゼロは呆れたように肩をすくめた。
「ああ、わかってるよ。お節介な赤髪お嬢さん。だが、俺たちもルカスには借りがたっぷりあるんでな。目的が重なってる間だけは、勝手に背中を守ってやるよ」
「……勝手になさい。その代わり、足だけは引っ張らないで」
夜が深まるにつれ、三人の間の空気は少しずつ、しかし確実に変化していった。
ゼロは愛機の整備記録をチェックし、セレスはヴィヴァーチェのバイタルデータを確認する。二人は似た者同士だった。自分の弱さを生意気な言葉で隠し、重すぎる宿命をその細い肩で背負っている。
ミラは、そんな二人の側に寄り添い、夜空を見上げていた。
「……星が、綺麗……。明日も、こんなふうに穏やかだったらいいのに……」
ミラの祈るような言葉が、凍てつく砂漠の空気に溶けていく。
ゼロとセレス。二人のガンダム乗りは、互いに背を向けて座りながらも、焚き火の暖かさを共有していた。明日にはまた、血と硝煙にまみれた戦場へ戻らなければならない。だが、この一瞬だけは、彼らは「戦士」ではなく、ただの少年と少女に戻っていた。
「……おい、セレス。そのゼストってところ……いつか案内してくれよ。飯ぐらいはマシなんだろうな?」
「……フン、教えてあげない。どうしてもっていうなら、考えてあげなくもないけど」
セレスの小さな反論に、ゼロが短く笑う。
やがて焚き火の火が小さくなり、三人はそれぞれの機体の足元で眠りについた。
しかし、その安らぎは長くは続かない。
遠く、地平線の向こうから、巨大な重力波の歪みと、金属が軋むような不気味な振動が忍び寄っていた。
ルカス・ギルモアが放った、想像を絶する「強大な敵」。
WXとヴィヴァーチェ、二機のガンダムがかつてない窮地に立たされるまで、残された時間はあと僅かだった。
**次回予告**
突如、夜の闇を切り裂く紅い落雷。
圧倒的な火力と質量をもって迫る、大型MSの脅威。
絶体絶命のゼロとセレスを救うのは、古の記憶か、それとも新たな共鳴か。
次回、『紅き落雷』
「俺たちの夜を邪魔する奴は、一匹残らず消してやる!!」
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