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「店長の車、久しぶりです。」
座席に腰をかけ、シートベルトをする。相変わらず、誰も隣に乗った形跡がないような助手席。
微かにタバコの残り香が鼻を霞めた。
「はは、そうだね。あの頃はまたこうして送ることになるなんて思ってなかったなぁ。」
苦笑いをすると、エンジンをかけた。恐らく、私と出会ったばかりの頃を思い出したのだろう。
「私もです。何だか、不思議な感じですね。」
「うん。でも俺は、藤塚さんのことよく知れたいいきっかけになったと思うよ。」
「ふふ、今日は積極的ですね。」
「あ、いや…そんなつもりじゃ…」
穏やかな雰囲気を残したまま、車は発進した。
模範的かと思うくらい、安全運転だ。車の揺れがまるでゆりかごのようで、心地いい。
「そういえば…気のせいだったらいいんだけど、藤塚さん、いつもより元気がないように見えたんだ。」
無言で、背もたれに身体を預けているとそんな言葉が耳に届く。
――ドキッ――
自分では意識してなかったのに、心臓が跳ね上がった。
動揺しているのがわかる。
「そう…ですか…?いつもと変わらないと思いますけど。」
平常心を装って答えるが、心臓は忙しく暴れている。
思い当たる節がないわけじゃなかった。でも…そんなはずがない。
もう、どうでもいい存在に、私が元気をなくすわけがない。
「うーん、じゃあ気のせいか。どことなく寂しそうっていうか、別のことを考えてる感じがしたんだけど…俺の勘違いみたいだね。」
「……」
何故か、心がざわつく。そう、まるで自分が嘘をついているような罪悪感に襲われる。