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#続くかは知らん☆
ただの僕
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「ゴホッ……ケホッ」
粉っぽい埃に塗れ、むせかえる。
咄嗟に身を捻ったおかげでぶつかることはなかったものの、ベッドから大きく投げ出され、床に這いつくばる形となった。
「あなた……誰?」
頭上から降る冷たい声。
顔を上げると、彼女の真紅の瞳に絡め取られる。
全身に緊張が走り、冷や汗が顎を伝っていった。
投げだされたのは彼女も同じようで、不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
「ご、ごめん。いつもは誰もいないから油断してて……」
彼女の瞳が一瞬、怪訝そうに細められる。
その一挙一動に比例して呼吸が浅くなっていくのがわかる。
(……伝えなきゃ。)
自分が、さっき会ったノームだってこと。
数えきれないほど繰り返した世界にようやく変化が訪れたこと。
今伝えなければ、また振り出しに戻ってしまう気がした。
震える口をこじ開け、……すぐに閉ざす。
汗で湿った前髪の隙間から、もう一度彼女を見る。
恐怖、絶望、怒り、憎しみ、妬み……。
声を出そうとすればカラカラに乾いた喉が痛んだ。
気付かないうちに硬く蓋をしていた感情が、あまりにも大きく重く濃く、喉をつっかえさせる。
僕が口籠もっていると、小さなため息が呟かれる。
「答えないなら別にいい。
誰か知らないけど、バイバイ。」
「……えっ?」
なんの感情も感じさせない、平坦な声で告げ、そのまま部屋を立ち去ろうとする。
呆然と、小さくなっていく背中を見つめる。
僕の中にはただ、消化不良の気持ち悪い何かだけが残された。
ふと、体が勝手に動くのを感じる。
パシンッ。
乾いた音と共に、彼女の手を掴み、引き止める。
「……知らないなんて許さない」
すっかりカサついた喉から、掠れた声が絞り出される。
(君は本当に、僕に興味がないんだね……。)
そう思うと、心にポッカリと穴が空いたような気がした。
僕の中に巣食う憎しみや怒り。
『自分でも気が付かない憧れ』
永遠とも取れる悪夢の中で積み重なった思いは、皮肉にも僕の心に深く根付き、その中枢に食い込んでいた。
一度、深く息を吸い直す。
「僕は……、君が散々食い散らかしたノームだよ!」
彼女が振り向いた拍子に、大きく見開いた真っ赤な瞳と視線がかち合う。
目があった瞬間、腹の奥から恐怖が湧き上がる。
それでも、絶対に目を逸らさない。
どうしても、僕という存在に気づいて欲しかった。
「僕はっ……んぐ!?」
紡ごうとした言葉は、彼女の小さな手に無造作に塞がれる。
(食われるっ!?)
再会してから初めての、彼女からの接触に心臓が引き絞られる。
ずっと我慢していた恐怖に耐えかね、目を瞑る。
「……来る。」
ボソリと漏らされた独り言のような呟き。
それは僕ではなく、別の何かに向けられていた。
恐る恐る瞼を持ち上げる。
彼女の視線は薄く開いた扉の奥へと向けられており、鋭利な眼差しに僕もつられてその視線の後を追いかける。
ズリッ……ズリッ……
何かを引きずる不快な音が張り詰めた空気を震わす。
廊下の痛んだ木材が軋み、異様に長い腕がその上を撫でるように伝っていった。
モウの管理人。
僕の心臓が、今日だけで何回目かというほど小さく縮み上がる。
「「……」」
逃げ場のない小さな空間で、必死に息を殺す。
緊張が極限まで高まったところで、やがて不気味な衣擦れは聞こえなくなった。
それでもなお、彼女も、僕も詰めた息を吐き出そうとしない。
押し付けられた小さなの手が離れたのはもうしばらく後だった。