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夜のレッスン室には、誰もいなかった。薄暗い照明の中、すちはピアノの前にぽつんと座り、指先だけを動かしていた。
ぽろん、ぽろん……
簡単なメロディを繰り返すだけの演奏。
だけどその音には、消せない想いがこもっていた。
🎼🍵「……俺、なんでこんなに、こさめちゃんのこと好きになっちゃったんだろ」
こさめの笑顔も、涙も、ふとした沈黙すらも、
全部、心の奥に焼きついて離れない。
“番”じゃないってだけで、こんなにも届かない場所にいるなんて。
🎼🍵「ひまちゃんには勝てないのかな……
こさめちゃんにとっての“絶対”は、やっぱりひまちゃんなんかなぁ……」
そんなふうに呟いたとき――
🎼👑「……すちくんは、“勝つため”に好きになったの?」
不意に聞こえたその声に、すちは顔を上げる。
そこにいたのは、ドアにもたれるみことだった。
すちが驚いたように目を丸くする。
🎼🍵「みこちゃん……いつから……?」
🎼👑「最初から。
こっそり聴いてた。……すちくんの、音も、言葉も」
そう言ってみことは、ゆっくり近づいてくる。
🎼👑「すちくんは、“勝てない”って言ったけど……
恋って、勝ち負けじゃないよね。
ただ、すちくんの“優しさ”が……
あたしには、ちゃんと届いてたよ」
🎼🍵「みこちゃん……」
🎼👑「……ねぇ、ずるいよ。
こさめちゃんのことばっかり見てて。
あたしだって……ずっと、すちくんだけ見てたのに」
みことの目には、滲むような寂しさが浮かんでいた。
それを見たすちは、ふっと息をのむ。
🎼🍵「……ごめんね、みこちゃん。
俺、全然……気づいてあげられてなかった」
🎼👑「ううん、いいの。
でも――そろそろ、“あたしのこと”も見てよ」
そのままそっと、みことはすちの手をとった。
⸻
一方そのころ、こさめは自分の部屋で、なつからのメッセージを見つめていた。
《お前が自分で選びたいなら、それでもいい。
……でも俺は、お前を渡すつもりはねぇ。
こさめは“俺の番”だ。それだけは、変わらねぇからな》
🎼☔️「なつくん……」
胸が、ぎゅうっと痛んだ。
やさしく包む“すちくんの手”と、
強く引き寄せる“なつくんの腕”。
こさめの中で、そのどちらもが、確かに“必要”だった。
(どうしたら……こさめは、誰も傷つけずに進めるんだろう)
こさめの瞳が、そっと閉じられる。