テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夢日記4日目。
私の夢の方は特段変化がなかった。
強いていうなら、例のざわざわという音がより近くなったくらいだ。
変化があったのは友人の方だった。
ざわざわという音は、どうどうと何かを打ちつける音に変わったらしい。
何かが地響きを起こしているような感覚だという。
あるいは、重いものが地面に落下して響き渡るようだという。
音の正体が近づくにつれ、友人は少し怖くなってきたらしい。
夢でも何か嫌なものを見るのはごめんだからだ。
元々、友人も夢に対して「怖い」という感覚があったようだし、無理からぬことだろう。
また、明晰夢を見る友人は本当に現実のことかと錯覚してしまうようで、とても恐ろしいと語った。
隣の芝生は青く見えるだけで、私は今のままで良いのかもしれない。
そんなことを思った。
夢日記5日目。
友人が日記をつけるのをやめてしまった。
理由を聞くと、ぞっとするような回答が得られた。
私と同じ夢を見ている友人は、その日も船の上にいる夢を見た。
そして、前方をいつもと同じように眺めていた。
何もない変わり映えのない景色。どうどうと響く謎の音。
あるのはそれだけだった。
そこで、友人はふと後方を確認してみたらしい。
いつもならそこには何もない。
しかし、何かがあった。
ぼんやりと黒い小さな影がこちらへゆっくりとやってくる。
なんだろうと思っていると、距離を縮めてどんどん黒い影は大きくなる。
何かが付いてきているのだ、と直感的に思ったそうだ。
怖くなった友人は前方に視界を戻した。すると、そこで恐ろしい声を聞く。
「おまえをころす」
ぎょっとしたそうだ。
低い男の声だったようである。無機質で、感情の起伏を一切感じられない。
聞く者を不安にさせるようでいて、どこか安心感を覚させる声音。
それがかえって恐ろしさを倍増させた。
舟は進み続ける。自分の意思とは無関係に前へ前へと向かっていく。
後方からは謎の追っ手が向かってくる。前方からは謎の男の恐ろしい言葉が聞こえてくる。
そんな板挟みの恐怖に耐えられなくなり、友人は夢の謎を追うことを断念したのだった。
夢日記6日目。
前回の一件から友人は夢日記の話をしたがらないようになった。
私は仕方なく、1人でこの取り組みを続けていこうと思う。
この夢の謎に迫りつつある、と思う。
夢の中の私はまた木々に囲まれた水上を舟で進んでいた。
そして、前方を見据えると点状の何かが見えた。
その何かに向かってやはり舟は進み続ける。
影は大きくなり、やがて……。
そこで意識は現実へと引き戻された。いや、もはや何が現実かも分からなくなるほどリアルな光景が夢の中でも広がっている。
夢とリアルの狭間を、私は揺蕩う。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!