テラーノベル
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おまる
昨夜の、あの熱く苦しいほど抱きしめられた余韻を引きずったまま、月曜日が始まった。
満員電車の中、高瀬くんがさりげなく腕を回して私をガードしてくれる。
その指先が私の二の腕に触れるたび、昨夜の彼の
「……凛さん」という熱い吐息が耳元に蘇り、私は俯くしかなかった。
(……冷静にならなきゃ。会社では、私は佐藤課長なんだから)
そう自分に言い聞かせてデスクに座ったものの、身体は正直だった。
以前は張り詰めていた肩の力が、どうしても抜けてしまう。
高瀬くんが資料を持ってくるたび、視線が合うだけで心拍数が跳ね上がる。
「佐藤課長、この請求書の内容、一点確認をお願いしたいんですが」
高瀬くんが差し出した書類を覗き込もうとして、彼の手が私の手に触れる。
ただの偶然。
けれど、私はビクッとするのではなく
その熱を求めて指先を絡めてしまいそうになる自分に戦慄した。
「……っ、」
「課長? どうかしましたか?」
高瀬くんは社内用の「部下の顔」を崩さない。
けれど、その瞳の奥には『昨夜の続き、したいんですか?』と揶揄うような光が宿っている。
「……なんでもないわ。…後で見ておくから、そこに置いておいて」
冷たく言い放ったつもりだったが、声が微かに震えていた。
それを見ていた隣のチームの女性社員が、コーヒーを片手にニヤニヤしながら近づいてくる。
「佐藤課長。最近、なんだか雰囲気変わりました? なんというか……トゲがなくなったっていうか、艶っぽくなったというか」
「……そ、そんなことないわ。気のせいよ」
「そうですかねぇ。高瀬くんも最近、妙に男らしくなったし。ねえ、やっぱり何かあるんじゃないですか?」
(……バレてる。…ううん、隠しきれていない)
かつて宏太に支配されていた頃の私は、死んだ魚のような目をしていたはずだ。
でも今の私は、一人の男に甘やかされ
愛され、内側から熱を帯びている。
それが周囲には「隙」として映り始めているのだ。
◆◇◆◇
その日の昼休み
誰もいない会議室で資料を整理していると、高瀬くんが音もなく入ってきて、内側から鍵をかけた。
「…何してるの、高瀬くん。誰かに見られたら……」
「『艶っぽくなった』なんて、他の奴に言わせないでくださいよ。…俺しか知らない顔なんだから」
彼は私の背後から腕を回し、首筋に深く顔を埋めた。
制服のブラウス越しに伝わる、彼の独占欲。
「高瀬、くん…ここ、会社……っ」
「分かってます。……だから、30秒だけ…充電させてください」
私は抗うことをやめ、彼の腕に身を預けた。
鉄の仮面は、もうボロボロに崩れ落ちている。
私はもう、この温もりがなければ仕事すら手につかないほど
高瀬瞬という人に深く、深く侵されていた。
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