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翔太が待ってる実家へ行く。
「ただいま、翔太?」
「おかあちゃん、おかえり。ばあばがごはんつくるって、おむらいすだって」
「あ、ホント?やったね!ばあばのオムライスは美味しいよ」
「おかえり、どうだった?」
「うん、あれ、女が悪いかも。いや、あんな女にだまされる健二がもっと悪いんだけど。離婚して結婚するらしいよ」
「え?もうそんな話になってるの?」
「というわけで、ここに帰ってきてもいい?」
「もちろん!二階に空き部屋あるから、早く引っ越しておいで。でも、翔太には、なんていうの?」
「なんて言おうかな?…」
そこだけは、悩むところだ。
翔太が会いたいと言えば、それを止めることはしない。
翔太にとっては、おとうちゃんとおかあちゃんであることは変わりない。
次の日、スーツケースに荷物をまとめに帰った。
平日だったから、健二は仕事に行ったようだ。
しばらく実家にいて、これからのことを考えることにした。
あの喫茶店での話し合いから3日がたっていた。
「おかあちゃん、おとうちゃんはきょう、くる?」
「ん?どうかな?」
「おとうちゃん、なにしてるの?」
「さあ、なんだろうね、お仕事忙しいみたいだね」
「おとうちゃん…」
離婚することを翔太に話しても、まだわからない。
でも、もうあの部屋には帰らない、ここで暮らすということは話しておかないと。
「あのね、翔太、これからはこのばぁばとじぃじのおうちでみんなで暮らすんだよ。みんなで仲良くね」
「おとうちゃんも?」
「おとうちゃんは…こないかな」
「どうして?」
「忙しいから。でもね、翔太がおとうちゃんに会いたいって言えば、きっと来てくれるからね」
「おとうちゃんに、あいたい…」
さびしそうな翔太を見ると、ぎゅっと心臓をつかまれたみたいに苦しい。
私は私の勝手で翔太からおとうちゃんを奪ってしまったのかもしれないと、それだけが後悔の種だった。
晩ご飯を食べて片付けている頃、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!」
パタパタとお母さんが玄関へ急ぐ。
「綾菜!ちょっときて」
「なぁに?まだ洗い物が…」
エプロンで手を拭きながら、玄関へいった。
「どうもすみませんでした!!」
健二が玄関の床に土下座をしていた。
額はタイルの床にこすりつけている。
「なに?いまごろ…」
「俺がバカだった、本当に、まさか綾菜も翔太も出て行くなんて思ってなかった」
「は?あんなことしといて?それも一度めもそうやって土下座しといて?裏切って?そこまでされた私の気持ち、考えたことある?」
「すみません、ごめんなさい、すみません、すみません…」
「もう遅い!さっさと帰ってあの子と仲良くすればいい!もうくれてやったんだから!」
私はリビングへ戻ろうとした。
そこへじいじとお風呂上がりの翔太がやってきた。
「おとうちゃん、やっときた、やっときた、あそぼう、ね!」
翔太は健二の腕をつかんで離さない。
「翔太!やめなさい、おとうちゃんは遊びにきたんじゃないの!」
翔太を健二から離そうと、思わず力が入った。
「いたい、おかあちゃん!うわーん!」
「綾菜、翔太に何してるの!ほら、ばあばにおいで。あっちにいこうね」
お母さんが翔太を奥へ連れて行ってくれた。
「なぁ、健二君…」
お義父さんが話し出す。
「俺も不倫は経験あるから、絶対的に否定ということはできない。でもな、そんなことしたら…それも繰り返したら取り返しのつかないことになるとは、考えなかったのか?」
「………」
正座した膝に手をついたまま俯く健二。
「覚悟はなかったのか?何もかもを失ってしまうかもしれないという覚悟は。謝れば許してもらえるなんて甘い考えで、そんなことしてたとしたら大バカものだ。そんな大バカものには、孫は会わせられないね、帰ってくれ!何度頭を下げられても、もう君には1ミリの信用もないってことだ、早く帰れ!!」
そう言うと、健二の腕をつかみ立ち上がらせ、玄関ドアを開け、外に突き出した。
小柄なお義父さんが、背の高い健二を追い出した。
「だいたい、なんで今ごろ謝りに来るんだ?その場ですぐに謝るべきだろ?なぁ綾菜…」
そこに立ち尽くしていた私の背中をぽんぽんとしてくれた。
「俺が偉そうに言えることじゃないんだけどな」
お義父さんは3回結婚して離婚してる。
でも、お母さんの前の二人との間にいるという子どもの話も聞いたことがないし、孫もいるはずなのに、その話もない。
何もかも失ってきたお義父さんだから、あんなふうに言えたのかもしれない。
次の日。
お休みだというお義父さんとお母さんについてきてもらって、荷物を持ち出すことにした。
アパートの玄関を開けたら、ものすごく散らかっていた。
脱ぎ散らかした靴や食べたままのプラスチック容器、ビールの缶、洗濯物、全部そのままだ。
通り道を作って、私と翔太の荷物を運び出す。
細々としたものが、部屋のあちこちに散らばっていて集めるのに時間がかかり、夕方になった。
そろそろ健二が帰るころだからと、お義父さんとお母さんには車で待ってもらった。
「あっ!」
健二が帰ってきた。
「ね、なに、この部屋。あの子に片付けてもらえば?汚すぎるんだけど」
「あの子、家事ができなくてさ…」
「じゃあ、健二がやるしかないよね?離婚してあの子と結婚するんでしょ?だったらさっさとここにサインしてよね」
私は離婚届と、約束事を書いた書面を持ってきていた。
【慰謝料100万円、養育費月3万円。養育費は毎月手渡しのこと。その日を翔太との面会日にする】
「金額は、貯金の額と健二の今の給料から考えてそれくらいだと弁護士さんに言われたから。それで文句ないでしょ?」
「…うん…」
「離婚届は、私が提出するから持って帰るね。健二に任せるといつまでも提出しないかもしれないし。そうすると私、いつまでも再婚できないから」
「再婚するの?」
「バカ!あんたに関係ない!」
健二が離婚届にサインするのを待って、さっさと帰った。