嫌なことがあった日は、いつも駆け足であの人のもとへ急いだ。
心の中の全てを、
あの人のもとへ持っていく。
あの人は。
おまじないを唱えるように、
言うの。
三角の滑り台の上から
『おかえり、ゆず』
って言うの。
私を見下ろして、
『こっちへおいで』
そう言うの。
そして。
あの人が手のひらで幼い私の目元を隠す。
それから、離す。
目の前に笑顔。
次第にぼやけていく視界。
私は涙をポロポロと流す。
あの人――三角の滑り台のおにいちゃんが教えてくれたおまじないは。
いつしか、幼い私の、
私の全てになってた。