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カイトの移籍の話は、順調に進んでいた。
彼の移籍は、大手事務所からの引き抜きという形になっていたけれど、
ちゃんと今の事務所にも筋を通したいからと彼自身が言って、何度か話し合いがくり返されていた。
話し合いの場には、メンバーが揃うこともあって、彼らは移籍に対して好意的だと、カイトから聞いていた。
中でも、シュウは協力的で、
「カイトには、もうやりたいことを、やらせてやってほしい。こいつが脱けた穴は、俺が絶対に埋めるから」
実際にそう掛け合ってくれたと、カイトがうれしそうに話してくれたこともあった。
──その日、私はカイトと移籍の最終的な打ち合わせをする必要があり、彼の仕事終わりを、スタジオの前で待っていた。
彼が詰めているスタジオの外には、たくさんのファンの女の子たちがいて、彼が出てくるのを、心待ちにしているようだった。
私は、そんな彼女たちから少し離れて、彼を待っていた。
……と、ふいに、こんな話し声が聞こえてきた。
「……ねぇあの人も、カイトのファンなのかな…」
「あんまり出待ちで、見かけたことないよね…あんな人」
聞こえるその会話は、私のことを指してていると知れた。
思わず、顔を上げると、
「……ねぇ、あの人、カイトの何? ファンにしては、年齢が上過ぎない?」
聞こえよがしに、そう言われた──。