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アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア よんでていいなっておもえるさくひんだ
朝。
空は少し曇っていた。
外階段に座ったまま、なつは目を開ける。
ほとんど寝ていない。
隣を見る。
ゆうは、壁に寄りかかって眠っていた。
静かな寝息。
数年前には見られなかった顔。
少しだけ、幼く見える。
なつは小さく息を吐く。
「……変わってないな」
ぽつり。
その声で、ゆうが目を覚ます。
「……うるせえ」
かすれた声。
ゆうは目をこする。
少し沈黙。
それから言う。
「まだいるのかよ」
なつは肩をすくめる。
「隣にいるって言っただろ」
ゆうは顔をしかめる。
でも追い払わない。
風が吹く。
朝の空気。
しばらくして、なつが言う。
「家、来るか」
ゆうの体がわずかに固まる。
あの家。
シェアハウス。
笑ってるやつら。
守られてるやつら。
そこに自分が入る。
「……居場所ぶっ壊すかもよ」
ゆうが低く言う。
なつは迷わない。
「それでもいい」
ゆうは目を細める。
「なんで」
なつは少し考える。
それから言う。
「壊れたやつが、立ち直る場所だから」
前に言った言葉。
でも今は、もっと重い。
「お前も例外じゃない」
ゆうは視線を落とす。
拳が少し震える。
「……いるま」
名前を出す。
「俺のこと、どう思ってんだ」
なつは正直に言う。
「警戒してる」
即答。
ゆうは苦く笑う。
「だよな」
でも。
なつは続ける。
「でも逃げなかった」
その言葉に、ゆうの眉が動く。
「お前の前に立った」
守られてるだけじゃない。
向き合った。
ゆうは、しばらく黙る。
それからゆっくり立ち上がる。
階段を降りる。
数歩歩く。
止まる。
振り返る。
「……一回だけ」
小さく言う。
「行くだけな」
なつが、少しだけ笑う。
「十分だ」
―――
その頃。
シェアハウス。
リビング。
いるまは落ち着かない。
何度も時計を見る。
こさめが横から見る。
「まだ帰ってこない?」
「うん」
いるまの声は小さい。
らんがソファに寝転びながら言う。
「大丈夫だろ」
すちも頷く。
「なつなら」
みことが静かに言う。
「でも、いるまは心配だよね」
いるまは小さく頷く。
その時。
玄関のドアが開く音。
全員が見る。
なつが入ってくる。
そして――
後ろに、ゆう。
空気が止まる。
誰もすぐに声を出さない。
ゆうは、家の中を見る。
笑い声の残る空気。
温かい場所。
少しだけ眉をしかめる。
そして。
いるまと目が合う。
沈黙。
数秒。
ゆうが言う。
「……来ただけだから」
言い訳みたいに。
いるまは、少しだけ息を吸う。
それから言う。
「うん」
短く。
でも、優しく。
「いらっしゃい」
その言葉に。
ゆうの心の奥で、
またひびが入った。
壊れる音じゃない。
ほどける音だった。
夜。
シェアハウスは静かだった。
昼の空気はもうない。
みんな、それぞれの部屋に戻っていた。
ゆうは、リビングのソファに座っていた。
落ち着かない。
この家の空気。
笑ってるやつら。
普通に話してるやつら。
それが、少し苦しい。
「……居心地悪」
小さく呟く。
その時。
キッチンの方で音がした。
振り向く。
いるま。
コップに水を入れている。
少しぎこちない沈黙。
ゆうが先に言う。
「眠れないの?」
いるまは少し驚く。
「…まあ」
コップを持って振り向く。
ゆうの隣には座らない。
少し離れた椅子に座る。
距離。
必要な距離。
ゆうが言う。
「警戒してんだ」
いるまは否定しない。
「してる」
正直。
ゆうは小さく笑う。
「だよな」
少し沈黙。
時計の音だけ。
カチ、カチ。
それから、ゆうがぽつりと言う。
「俺さ」
視線を天井に向けたまま。
「お前、嫌いなんだよ」
いるまは驚かない。
「知ってる」
ゆうの眉が少し動く。
「なんで?」
いるまは少し考える。
それから言う。
「なつの隣にいるから」
ゆうの呼吸が止まる。
核心。
「俺が欲しかった場所」
ゆうの声は静かだった。
怒鳴らない。
でも、痛い。
「そこにお前がいる」
いるまは黙る。
言い返さない。
しばらくして、ゆうが言う。
「でもさ」
目を閉じる。
「今日、公園で思った」
いるまを見る。
「逃げなかったな」
ゆうの目は鋭い。
試す目。
「普通、俺みたいなの来たら逃げる」
いるまは少し笑う。
弱い笑い。
「逃げたことあるから」
ゆうが眉をひそめる。
「昔」
いるまは静かに言う。
「俺も、壊れてた」
空気が少し変わる。
ゆうは何も言わない。
聞く。
「親が」
言葉が少し止まる。
でも続ける。
「怖くて」
「家が怖くて」
「逃げた」
ゆうの目がわずかに揺れる。
「でも」
いるまは続ける。
「その時、誰もいなかった」
助けてって言えなかった。
言う相手もいなかった。
「だから」
ゆうを見る。
「“一緒にいるならいる”って言った」
救うとかじゃない。
ただ隣に。
ゆうは黙る。
長い沈黙。
それから言う。
「……ムカつくな」
でも声は弱い。
「俺と同じ顔すんな」
いるまは少しだけ笑う。
「してない」
ゆうの目を見る。
「俺は、もうここにいる」
逃げない場所がある。
ゆうは天井を見る。
胸が痛い。
羨ましい。
悔しい。
でも。
少しだけ。
安心する。
ゆうが小さく言う。
「なあ」
いるまが見る。
「こさめ」
名前を出す。
「お前のこと、めっちゃ心配してた」
いるまの目が少し丸くなる。
ゆうは肩をすくめる。
「俺、入ってきたとき」
思い出す。
あの空気。
警戒。
守る目。
「一番前に出そうだった」
いるまは小さく笑う。
「出るよ」
迷わない。
「こさめだから」
ゆうはしばらく黙る。
それから立ち上がる。
「……寝る」
歩き出す。
階段の手前で止まる。
振り向かない。
でも言う。
「少しだけ」
小さな声。
「安心した」
その言葉を残して、上に行く。
リビングに残るいるま。
静かな夜。
壊れたもの同士。
少しだけ、
距離が縮まった夜だった。