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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ガウェイン辺境伯との会見を終えた私達は、足早に会見場所であるレストランを後にしました。 既に時刻は真夜中、ドレス姿では何かと目立つのでいつもの村娘スタイルです。嵩張るドレスは後日辺境伯が送ってくれるみたいなので、お任せしました。
お母様は、闇に溶け込むような真っ黒なローブとフードで全身を覆い隠しています。昼間ならば逆に目立つかもしれませんが、夜だと別に目立ちません。
だって、明らかに怪しい格好をした人たちが闊歩するのが真夜中なのですから。
『帝国の未来』にあるようなガス灯など存在しません。市街地には等間隔に篝火が焚かれていますが、それも燃料費が馬鹿になりませんから基本的に月明かりが頼りです。
黄昏?電灯の普及を急いでいる最中です。ただ、コストの高さからガス灯も利用しているのが実情ですが。それにともない街並みも変わりつつあります。
以前レイミがまるで西部劇だと感想を漏らしたことがありました。意味は分かりませんが、まあレイミの事です。悪い評価と言うわけでは無いでしょう。
「お嬢、終わったか」
暗闇の中ですが、ランタンを携えたベルが待っていてくれました。
「ええ、終わりました。ベル、明朝直ぐに発ちます。黄昏へ戻りますよ」
「あいよ、長居は無用って奴だな。馬車を手配しとく」
「お願いします」
暗い夜道を歩いていると、最後尾のお母様が静かに囁きました。
「シャーリィ、つけられているわよ」
「賊の類いでしょうか?」
「それにしては、足音も静かなものだわ」
「手慣れていますね」
まあ暗い夜道を歩いていれば、賊に襲われるのは珍しいことではありません。夜は危険な時間帯ですからね。基本的に堅気は余程の事がなければ夜に外へ出ることはありません。精々警らの守衛くらいです。
それでも町中全てを監視することは出来ません。黄昏でも警備に力を入れていますが、それでもゼロには出来ません。
「どうする?お嬢」
先頭を歩くベルが振り向かずに問い掛けてきます。ふむ、ここが別の場所なら返り討ちにするところですが、ガウェイン辺境伯のお膝元。必要だったとは言え、既に刃傷沙汰を起こしていますからね。出きればこれ以上町中で騒ぎを起こしたくはありません。
……ならば。
「このまま大通りを進んで町から出ます」
「宿には戻らねぇんだな?」
「はい。これ以上の騒ぎを町中で起こすのは避けたいので」
「で、町を出てもついてくるなら始末するのね」
「はい、町の外なら関係無いので」
基本的に町の外は魔物が闊歩していますので、ほとんど無法地帯扱いです。つまり、町の外は全て自己責任。殺されても害されても帝国は関知しません。だから商人は武装した傭兵を雇います。それを惜しみ傭兵を雇わない命知らずもたまに居ますが、末路は言うまでも無いでしょう。
無法者をやるのも自由ですよ。ただし、反撃されたりして死んでも自己責任ですが。
この辺りは治める領主によって違いもあります。アーキハクト伯爵領では定期的に魔物や賊の討伐を行っていたので、少なくとも街道周辺の治安は他所より良かったかな。
私達は気付かないフリをしつつ、町の外へ出ました。外には街灯の類いはありませんから、ベルが持つランタンと月明かりが全てです。
「お母様」
「まだ付いてきているわね」
「しつこいですね」
町中を狩り場にしている賊ならば、外までは追い掛けてきません。割に合いませんからね。
「お嬢、獣の臭いだ」
「ナイトウルフでしょうね。リナさんから聞いています」
この辺り一帯は夜行性のウルフ種の縄張りだそうです。穀倉地帯だけあって牧畜も盛んですから、家畜が襲われることも多いのだとか。
ただ、今回は邪魔です。腰に吊るした柄だけの勇者様の剣を握り、魔力を循環させて周囲に解き放ちます。
最近マスターから学んだ技……いや、技と言うほどでもありませんが、基本的に人間には無意味です。魔力を感知できるレイミくらいでしょうか。
ただし、魔物は総じて魔力に敏感です。そして私の保有魔力は桁違いらしいので、それを周囲へ解き放つだけで魔物に対しては威圧になります。
「……何かしたのか?お嬢。気配が遠ざかってるように感じるんだが」
「ちょっとした小技ですよ。魔物にしか意味はありませんが」
どうやら上手くいったみたいです。ダンジョン内部の魔物以外に試したのは初めてでしたが、成功してよかった。
「ん……早めたわね。シャーリィ、追い付かれるわよ」
ふむ、背後の賊もスピードを上げましたか。
「人数は分かりますか?」
「……五人から七人かしらね。どうする?」
「ここから辺境伯にもご迷惑にはならないでしょう。ベル、お母様。間合いに入ったら教えてください」
「飛び道具を使うかもしれないわよ」
「その時はその時です」
まあ、一瞬だけ街灯に照らされた姿を見ましたがかなり身軽でした。ナイフなどの軽装で素早く相手を仕留めるタイプだとは思いますが。
私達は敢えて速度を落とし、更に呑気に談笑して相手の油断を誘い。
「シャーリィ」
お母様の合図を受けて腰に吊るしていた勇者様の剣を取り高々と掲げ。
「ホーリーライト!!!」
聖属性魔法を発動させました。主にアンデッド相手に使う魔法で、人間相手には何の効果もありません。しかし、その聖なる光は正直かなり眩しいのです。そして今は明かりのほとんど存在しない夜道。暗闇に慣れた目には眩しすぎる筈。
「なにっ!?」
当然私達を追跡していた賊の目潰しになります。効果は一瞬でしょうが、それだけあれば充分です。
「ふんっ!!!」
ベルが大剣をおもいっきり振り抜き、まるで雑草を刈るように三人の胴を払いました。ふむ、敵は六人。残り三人は直ぐに体勢を立て直そうとしていますが、遅すぎますね。だって、既に剣を握っているお母様が駆け出したのですから。
ドルマンさん手製の義足は上手く機能しているみたいで、お母様の歩みにも支障はありません。
「うちの娘に手ぇ出してんじゃないわよ」
一人目はそのまま首を撥ね飛ばし、二人目はナイフで刺そうと腕を突き出しましたが、その腕を振り下ろした刃で切り落としてしまいました。三人目は一旦距離を取ろうと後ろへ飛びましたが。
「……あ?」
「こんばんは」
加速して回り込んでいた私が光の刃を出して待っていましたので、自分で突き刺さって光の粒になってしまいました。
「呆気なかったな」
「反撃されても倍の人数ならば問題ないと判断したのでしょう」
間違いではありませんよ?相手が悪かっただけですから。
「シャーリィ、死体はどうするの?」
「放置で構いませんよ」
腕を切り落とした賊の頭に剣を叩き付けてそのまま捨てるお母様。相変わらず豪快ですね。
で、いつものようにベルが所持品を調べています。生け捕りにしないのかって?尋問する場所もありませんからね。単なる賊だとは思いますが。
「お嬢、こんなもんを持っていたぞ」
ベルが差し出したのは書状。中身を読むと……。
「……反応に困りますね」
そこには、ワイアット公爵家の紋章が描かれていたのですから。
……ここまで間抜けな相手は初めてです。