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歩行者用信号機の音が鳴り響く。交差点では横断歩道を人が行き交っている。
ショルダーバックを斜めにかけては、駅前のショッピングモールを目指して歩いた。
若いカップルが腕を組んで仲睦まじいそうに歩くのを見て、羨ましそうに通り過ぎた。
あんな頃も自分にあっただろうかと思い出す。
ベッタリとくっついて歩いたのはいつのことだろうか。
今は、何だか宙ぶらりんの状態の恋愛状況。
颯太も未だ決断してくれていないし、拓海も別れ話を今度こそネックレスを壊してまで言ったはずだったため、もう連絡も来ないだろうとスマホを何度も見ながら、メッセージを確認する。
公式アカウントのお店のお得情報のみが大量に送られてくるだけで個人的に“友だち”の項目から連絡が来ることはなかった。心がぽっかりと空いたように寂しかった。
今は、誰もそばにいない。
幼馴染の颯太を思い出しては、気分が上がったかと思ったが、通りすがりのカップルを見て、落ち込んだ。
自分には、すぐに呼んで隣にいてくれる彼氏がいない。
満たされない。
この際、誰でもいいってわけでもなくて自分をわかってくれる人がもちろん良いのだ。
無意識に進めた足は、何故かアクセサリーショップに進んでいく。
罪悪感が沸々と湧き上がった。
人様から貰ったものを目の前で壊してしまったことになんてひどいことをしたんだと思い直した。所狭しと、ピアスやイヤリング、ネックレスや髪飾りなど様々な可愛いものがたくさんあった。ひとつひとつ覗いてはどれか良いものがないかと見つめた。拓海が選んでくれたものと全く同じ蝶々のシルバーネックレスが、ぶら下がっていた。確かに高くはない。
でも、こうやって陳列されているのを見ては選んで買ってくるというのは、男性にとっては恥ずかしい行為ではないかと
想像する。女子が自分のために買うのとは訳が違うのではないかと思った。
店員は女性ばかりであるし、彼女にですかとか聞かれたりしなかっただろうかと考えてみたりする。
美羽は、もう一度、蝶々のネックレスを触って、見直した。
横から、誰かの手が伸びた。
「それ、やっぱり欲しいんだろ」
ハッとした美羽は手が伸びた横に目をやると、拓海が平気な顔して立っていた。
「な?! 拓海?!」
「美羽、それ、欲しいんだろ?」
「……別に」
「嘘つくなよ。その蝶々、可愛いし、美羽に似合うから。買ってやるよ」
「え……。だって、壊したし、いいよ、もう。いらないよ」
触っていた手を引っ込めて立ち去ろうとした。
「美羽、ごめんな」
後ろ向きのまま、拓海は謝った。美羽は振り返って、足をとめる。
「私も……せっかく貰ったネックレス……。壊してごめんなさい」
「元々は、俺が悪いから。連絡もろくにしない俺が、急に誕生日祝いなんて調子良いよな。悪かったよ、本当。でも、壊したのは忘れていいから。これ、買ってもいい?」
「……もういいって。また無くしたりするかもしれないし。大事にできないから、私」
拓海は、美羽の腕をつかんでは、さっきのアクセサリーショップに連れて行く。
「んじゃ、違うのにしよう。どれがいい? 前のこと思い出すのなら、好きなの選んでいいから」
「……私にもらう権利ないよ。彼女じゃないし。いいよ、大丈夫」
「……そしたら、友達としてでもいいから。ほら、選んで」
どうしても、プレゼントをしたかったようで拓海はしつこいくらいに推した。
「えー、良いって言ってるのに」
「んじゃさ、アクセサリーじゃなくて防寒具とかどう? ほら、マフラーとか。これ、かぶるだけだよ」
頭からスポッとかぶって首を温めるマフラーを美羽にかぶせた拓海。
「温かいけど……」
物をすすめられても罪悪感が強くて買ってもらうことに抵抗を感じた。
「全然、興味なさそうだな。んー、んじゃ、カフェラテでものむ?」
「……」
あの手この手で興味ありそうな提案をするがすぐに頷くことはできない。拓海は、美羽の手を引っ張って、同意を得ずに連れて行った。何も言えなくなった美羽は、とりあえず着いて行くことにした。嫌がる素ぶりは見せなかった。
1人で歩くより、良いかと安易に考えていた。その様子を親子で買い物に来ていた。颯太と紬がしっかりと見ていた。
「ねぇねぇ、あれ、この間、ウチに来たおねえちゃんじゃないの?」
「え……ああ。そうかもしれないな」
颯太は、拓海と手を繋いで買い物を楽しむ美羽を見て、それが1番理想的だろうと自信を無くしていた。
「パパの彼女じゃなかったの?」
「……え? だって、俺は、紬のパパだろ?」
「パパだけど、彼女作っちゃだめって誰が言ったの? 離婚したんだから、早く新しいママ連れて来てよ」
「何言ってるんだか、簡単にママなんてできるわけないよ。ハードルが高いんだってば」
「は? コンドルだかなんだかわからないけど、しっかりしなよ、パパ。他の人におねえちゃんとられないように頑張りなさい!!」
紬に背中をバシッと叩かれる始末。なんでこんなことになってるんだと自分の行動を後悔し始めた。
買い物を楽しむ2人の間に到底入れる訳もなく、紬の言われた方と違う方角に足を進めて家に帰ろうとした。
数メートル離れた紬と颯太。紬は手をポンと叩いて閃いたらしく、突然、大きな声を出して、泣き出した。
颯太は、紬の大きな声にびっくりして、慌てて戻ろうとしたら、近くを歩いていた美羽と拓海がこちらに気がついた。
ショッピングモールの通路は一時的に人だかりができた。
颯太は、紬をヨシヨシとなだめるので必死だった。
「颯太さん?!」
泣いていた紬に近寄った颯太に美羽はびっくりしていた。横にいた拓海は不機嫌そうだった。