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ショッピングモールの通路の真ん中でペタンと膝を曲げて座る紬の隣に

颯太がいた。そして、さらにその近くでは、美羽と拓海が並んで駆け寄った。


「あ、デートかな……」


颯太は自信なさそうに小声で言う。


「違う違う、たまたま会っただけ」


「な!?」


(気づかれないように後ろ着いて来たに決まってるだろって。偶然じゃないのに)


拓海はデートのつもりでいた。美羽は絶対違うと手をぶんぶんとふる。


「いや、もうどっちでもいいんだけどさ。ほら、紬、立ち上がって」


嘘泣きだと気づいた颯太は、紬の腕をつかんでは体を起こした。ばれたと気づいた紬は舌をペロッと出した。

立ち上がってすぐに紬は、美羽の腕をつかむ。


「私、このおねえちゃんと買い物したい! パパはいや」


「え?!」


美羽は突然のことで目を丸くする。拓海の背後には想像も絶するような炎が沸き上がってるように見える。


「いや、紬。邪魔しちゃいけないって」


「そうだよ。俺たちの邪魔するなって」


拓海が思わず本音が出る。颯太は冷や汗をかく。前会った時とは事情が違う。紬がいることで勝てる気がしないと気弱だった。


「やだ!! ぜったいやだ。やだやだやだ」


紬は見たこともないくらい駄々をこねる。さすがにその様子を見た拓海でさえも後退するくらいだ。


「わかった。いいよ、一緒に買い物しよう。何が欲しいの?」


タジタジになる美羽は、紬の要望をのむ。


「私、学校に着ていく新しい服が欲しい。パパの選ぶ服は地味な色ばかりで私の希望の色を選んでくれないから!!」


「って、おい。選ぶの面倒だから任せたんじゃなかったのか?! 話が違うぞ」


「よし、行こう。あっちの方かな」


美羽は颯太の言葉を無視して、紬と一緒に洋服屋を探した。一見よくわからないメンバーでの買い物となった。拓海も帰るタイミングを失って、結局、一緒に買い物に付き合うこととなる。後頭部に両手を乗せて歩きながら


「女子の対応って本当大変っすよね」


颯太にボソッと言う。颯太はなぜか同感してしまう。


「確かにな……」


ため息が出た。手をつなぎながら、うれしそうにあっちこっちと服を選ぶ紬の姿を見てほほえましかった。がっつり買い物を終えて、男性陣は大きな袋の荷物持ちとなっていた。最後には、ゲームセンターで遊ぶことになる。UFOキャッチャーで

お気に入りのぬいぐるみを見つけては、拓海も本気になって集中して何度も挑戦した。結局のところ、3000円くらい両替して全部使い果たした頃にようやく大きなぬいぐるみを取ることができた。誰に渡すかと思ったら、気を使って、紬に手渡していた。紬は、白いふわふわのぬいぐるみぎゅーと抱っこして喜んでいた。


「珍しい。取ってあげてる……」


「小さい子には優しくだろ」


「私にはないんだ?」


「欲しいの?!」


拓海はまたお札を何枚も両替しては、UFOキャッチャーでもう一つ取ろうとしたが、いくらかけても美羽のためのぬいぐるみは取れなかった。遠くで、お菓子コーナーのチョコレートのUFOキャッチャーをしていた颯太が、数百円で2箱取ることができてドヤ顔をしながら美羽と紬に渡していた。メラメラと拓海は目を燃やしてイライラしていた。


(ちくしょう……)


2人は大層喜んでいた。


「ありがとう」


「まぐれだよ。でも、2つも取れてよかったね」


「パパ、すごいじゃん」


「そお?」


「そうそう、運だから。これは」


拓海は悔しそうに隣のお菓子を取ろうとしたら全然取れずに悔しがった。


「そろそろ、帰るか」


颯太が紬の様子を見て、言った。目をこすり始めていた。眠くなってきたようだ。


「そっか。紬ちゃん、楽しかった?」


美羽は、目線を合わせてかがんで聞いた。


「うん。たくさん服も買えたし、ぬいぐるみとお菓子も取れたから。大満足だよぉ」


「そっか、よかったね」


「おねえちゃん、ありがとう。それと……」


紬は、つつつっと拓海の隣に行っては顔を近づけてと指示を出す。


「ん?」


拓海は、ズボンのポケットに両手をつっこんで、紬の顔に自分の顔を近づけた。

耳打ちで紬が


「おにいちゃん、ありがとう。ぬいぐるみ大事にするね!」


「お、おう」


少し頬を赤くしてうれしかったようでご機嫌になる。



颯太と紬、美羽と拓海はそれぞれに別れを告げては別な方向に歩いていく。

行きかう人々の合間をすり抜けて、ショッピングモールの通路を進んで行く。

美羽は少し不満顔になっていた。


「ねぇ、なんで、私、拓海とこっち来ないといけないの?」


「え、だって、買い物途中だったろ? 俺ら」


「え、別に買うものないよ? 自然の流れでこっち来ちゃったけど、拓海、1人で帰ってもらっていい? 私、あっち行くから」


振り向いて、後ろに行こうとする美羽の腕を拓海は、つかんだ。


「待てよ。そしたら、最後でいいから今日くらい一緒にいてくれよ。頼むから」


美羽の腕の力が弱まった。


「最後って……前から言ってるけど、私たち、もう付き合ってないよ。自由にさして」


不意打ちに拓海は美羽の体を抱きしめた。


「もう、言わないから。今日だけでいいから」


美羽は、はねのけようとした手をおろした。拒否することをあきらめた。颯太の方に行ってしまう美羽をどうしても止めたかった。本当にこれが最後なら、受け入れてあげよう。

罪悪感がまだ抜けきらない申し訳ない気持ちが償えるような気がした。

本音を隠して、拓海の家に一緒に帰ることにした。これまで我慢していたであろう気持ちをこれでもかというような拓海は、玄関のドアを開けてはすぐに頭の先からつま先まですべての美羽を感じるように一方的に愛した。


充電は満たされないままただただやり過ごした。

これで最後これで最後と言い聞かせるように美羽は将軍を相手する大奥の気持ちがわかった気がした。


ベッドの上でただ一人眠れぬ夜を過ごしては窓の外をずっと見続けた。

やっぱりリスクは無くても拓海とは一緒にいられない。


横でいびきをかいている拓海をそっと起こさないようにしてすぐに着替え

音を静かに部屋を出た。


ミッションは完了した。


美羽はすぐにでも

行きたいところがあった。


パンプスの靴擦れが

あっても気にならない。



気持ちが焦る。



歩行者用信号が青になるのが

待ち遠しかった。



信号のカッコウの鳴き声の音が鳴り響く。



花壇の近くでうろうろしていた3羽の鳩が

バサバサと飛び立っていく。

愛の充電器がほしい

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