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指がとれちまいそうに寒い夜だったな。僕はもう夜の10時だっていうのに、外で1人、コートも着ずにぶらぶらしてたんだ。ハッキリした日付は覚えてないけど、間違いなく冬だったよ。なんたって雪がすごく積もってたからな。
なんでこんなことになっちゃったかって言うとさ、あんまり言いたくはないけど、父さんと喧嘩しちまったんだ。
僕の父さんはすっごい石頭でね、石器時代の常識を今でも引きずってそうなくらいの保守的な知恵遅れ野郎なんだ。本当だよ。おまけに贔屓がひどい。あといちいち無駄に人を見下してきてサイアク。そのくせ外面だけはいいんだから、困ったもんだよ!
父さんとはよく喧嘩してたけど、今回はいつもよりずっと酷い言い合いになっちまったんだ。でも僕はなにもおかしなことは言ってないんだよ!父さんが「いい加減その破茶滅茶な服の着方はやめなさい」だかなんだか言うから、「服の着方なんて僕の勝手だろ」って言ってやっただけなんだ。そしたらアイツはなんて言ったと思う?「そんなんじゃ服が可哀想だ」だと!わけわかんないぜ!そりゃ、服が痛むようなヘンテコな着方をしてるなら言われるのも分かるよ。だけど今回ばかしは本当におかしくなかった!ホントなんだ!ただ、ちょっとだけ正装とは違う風に着てただけだったんだよ。
そんな屁理屈じみた小言が、僕は本当に頭にきちゃって。破茶滅茶なのは父さんの頭だろ!?って思わず叫んじまった。
そこからは酷かったね!お互いの貶し合いだったな!しまいにはぶん殴られたけどさ。
そんで結局そのまま家を追い出されちゃって、今に至るってわけ。はあ、思い返すだけで気が滅入っちゃうよ、僕が何したって言うんだ…。
こんなに寒い夜に息子を締め出して、本当にぽっくり逝っちゃったらどうするつもりなんだろうな。まあそんなことはいい、とにかくどこかに入らないと、そのまま雪像みたいに動けなくなっちまいそうだ。
不幸中の幸いって言うんだかなんだか知らないけど、ありがたいことに僕は喧嘩の最中、こっそり財布を手に取ってたんだ。あのノロマ野郎の目を盗んでね。そんでそのまま家から締め出されたもんだから、もちろん財布はこの手にあるんだな。
はは!この財布さえあれば、どんな店に入るんだって怖くない。中身は結構入ってるんだ。
とりあえず僕は近くの服屋に入った。でかい通りに面してる店だし、いつも行くときには人でごった返してるようなとこなんだけど、今日ばかしは全然人がいなかったな。多分、そろそろ閉店だったんだと思う。入って少しすると、店の奥からおばさんが出てきたんだ。この人はあんまり好きじゃなかったな、変に気取った香水のにおいがぷんぷんしてた。
「あら、こんな時間に1人でお買い物ですか?随分と薄着ですね」
「ええ、ちょっと防寒具を買いたいもんで」
貼ってつけたみたいな笑い方だったけど、確かに閉店間近に客が来たりなんかしたら、そんな笑い方にもなるか。おばさんはその顔のまんま僕の近くの空ハンガーを集め出して、そのままこう言ったんだ。
「あまり感心しないですよ、子供が1人で買い物だなんて。お父様は知っていて?」
これには僕も参ったね!子供?そりゃあ僕は大人でこそないけど、子供って歳でもないだろう。青年って言うべきだ。だいたい大人ってのはいつもそうだ、決まってハンガーをいじりながら説教しやがる。服屋のおばさんでさえも、ハンガーをカチャカチャ音をたてていじらなきゃ説教できないんだから…きっと大人はハンガーの悪魔にでも取り憑かれてんだろう。馬鹿らしい。
「子供って歳でもないですよ。父さんには好きにしろと言われてます」
僕の答えを聞いたおばさんは、「そう、じゃあごゆっくり」とだけ言って、空のハンガーを抱えて店裏に引っ込んでった。絶対信じてなかったな、あの目は。でも僕、嘘は言ってないんだな。父さんは確かに好きにしろと言いはしたんだ。不本意だったとしても、言いはしたんだよ。
そのまま僕は安くなってたジャケットと帽子を買って、さっさとその店から出た。最後までおばさんがカチャカチャ、カチャカチャってずっとハンガーをいじってたのを覚えてるよ。
ジャケットと帽子を着て外に出ると、さっきよりも断然暖かかった。服屋には手袋とか、靴下だとかもあったんだけど、あまりお金を使いすぎるのもよくないなと思って買わなかったんだ。だけど、それはちょっと間違ってたね。体と頭があったかくなった分、指先や足先が冷えるんだな、これが!靴も締め出される直前に履いた適当なやつだから、雪が染みて靴下まで濡れてたんだ。手はとっくにカチコチだったしね。
僕は乱暴にジャケットのポッケへ手を突っ込んで、早足で唯一場所を覚えている宿に向かった。
僕の家とか、さっきの服屋とかがあるのは割と都市部なんだけど、宿があるとこはもう郊外でね。馬鹿みたいにボロくて、入り口で気色悪い虫が死んでるようなところだった。正直入る気が失せたね、あの光景は…。でも僕には凍え死ぬ趣味なんてないから、何も言わずチェックインしたんだけどさ。
案内された部屋はそんなにいい部屋じゃなかったんだけど、すごく暖かかった。今にも指先が凍傷になっちまいそうだったから、これにはすごく助かったね!それに、僕はこういう部屋も本当は嫌いじゃないんだ。父さんだったらすぐに「狭い」とか「換気がなってない」とか「不衛生すぎる」だとか言うんだろうけど!でも僕は、秘密基地っぽくて嫌いじゃない。時計とベットさえあれば、宿なんて困ることはないと思うんだよ。
着替えなんて持ってなかったし、(持ってたとしても、僕は多分着替えなかっただろうな)今更買いに行く気もなかったから、靴下と防寒着だけ脱いでそのままベットに転がった。家のに比べちゃ粗末だけど、それでもやっぱりベットはふかふかしてて、いい気分だったよ。
僕は軽くなった財布を畳んだジャケットの隙間に押し込んで、そのままがばっと布団を被った。歩き回るうちに時刻は11時を回ってたし、さっさと寝た方がいいと思ってさ。