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続編

それから数十日。

冷たい風が頬を刺す、12月のある日。

……その日も、海音君は屋上で待ってくれていた。


「久しぶり、ですね」

「…ひさしぶり。」

「…顔、真っ赤ですよ。カイロいります?」

「へ?…ぁ、大丈夫…」


僕は、海音君に恋をしていた。

…いや、してしまっていたんだ。

好きになってしまったことに気づいてから、僕は彼と上手く話せなくなったし、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

ベッドに突っ伏して2時間ずっと考え込んだりもしたし、不安で仕方なくて泣いてしまうこともあった。

でもこの恋はいつか終わる、そのことだけは確定していた。

だから、その時をただ待つしかない。


「…なんかごめんね」

「え」

「最初は息抜きのつもりでここに来てたんでしょ?でも、僕みたいな面倒な人に付き合わされちゃって…息抜きどころじゃないじゃん」

「…」


こんな自虐的なことを言ったが、内心否定して欲しいと思っている。

優しくて暖かい彼。

僕にとって彼は最早精神安定剤と言っても過言ではないくらいに、この恋心は重くて暗いものになっていた。


……お願い、”違う”って言って。


「別に辛くはないし、なかなかこの時間もいいな、と思ってますよ。あんま話さないことも話せますし、先輩の話もクラスメイトより面白いし…」

「…そうなの?」

「クラスメイトの話なんてしょうもない物ばっかですよ。ネットで偶然拾った他人のネタを自慢げに話してくるんです。ま、男子に限りますけど。」


…否定してくれた。この事実だけで、明日の生きる力になる。

まあ、否定なんて誰でもしないと思うんだけどね。


またひとつ、やり場の無い感情が生まれてしまった気がした。

このまま一生を共にしてくれたら。ずっと笑いあえてたらいいのに、ね。



まあ、この社会じゃ到底無理なんだけど。



─夜の8時半。彼と交換した連絡先で、トークを繋いでみた。


〈こんにちは 繋いでみたよ〉

とメッセージを送ると、2分ほど後に既読が着いた。そして、こう送られてきた。

〈こんにちは〉


(来た…!)

何気ない、そっけない返事だったけど、とても嬉しい。

不思議と口角が上がってしまう。

〈なんか嬉しいかも。てか、嬉しい〉

〈なんかいい事ありました?〉

〈気づいてるくせして〉

〈え?〉




そこから30分くらい経っただろうか。いつの間にか、会話は止まっていた。

当たり前で、ちょっとだけ特別な、そんな気持ちの余韻と、もしもの世界線で生きていた、幸せなはずな自分の妄想に浸る。


─いつもどんな事をしているかな。

─そういえば、海音くんはどんな食べ物が好きなんだろう。甘い物かな。

─僕の自傷癖は落ちついてるかな。

─初めてふたりで過ごした夜は、どんななんだろうな。

─そういうこととか、するのかな。やさしくしてくれるかな。


「…いつか、本当になるといいな」


そう呟いた時、ふと意識が切れた。正式には、寝ただけだけど。

…今日見たのは、屋上で海音くんと笑う夢だった。




「泣いてる……」


頬と枕が冷たい。幸せな夢でさえ泣いてしまうのか。みじめ。

いや、幸せな夢だからこそ、なのかもしれない。


……休みだ。あー。何もしたくない。

でもなぁ……受験……志望校とかよくわかんないし…夢ってなんだったっけ…なりたいもの……


「…気力なきゃなんもできんし……もういっそ留年しよかな…」


ほんとになさけない。なんもしない自分が情けない。

なんでなの。努力は決してしないくせして、被害妄想はしっかり激しいの。

……また、涙が溢れ出した。


(もうやだよ…)


同性愛者なんて、ならなきゃよかったのに。産まれなければ。


親孝行できなくて、ごめんなさい。





「またやりすぎちゃった」

手首に血が滲む。

ざっくりと割れた傷口からは、黄色のなにか……皮下脂肪?が見える。痛い。

何となく、傷を数えてみた。手首と…足にも少し。計20近く。


「増えたなぁ……」


ヴ…

スマホ画面が明るくなった。海音君からのメッセージ通知だった。


“あの、大丈夫ですか”


何件か来ていたみたいだ。この時間、いつもは起きてるけどあまりにも既読がつかないから、心配してくれたんだろう。

〈大丈夫 ありがとう〉


……大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ、海音君。もう早く、気付いて。

僕の勝手な妄想を、はやくその声でズタズタにして。


「おねがい……早く…」





このままだと留年、だな。早めに手を打たないと。


あれから数週間。先生に、そう言われた。

学校とか、もうわかんなくなってきた。なにして、何かいて、何解いてるのか。

その事を話したら、お母さんに心配されまくった。怒りかけだったけど。

大丈夫だよ、ってなだめたら、いつしか話は止まっていた。


(あーあ、多分もう無理だ)


いつか、傷とかメンタルの弱さとかばれたらどうなるんだろう。学校もまともにいけなくなるかなあ。



「先輩」

「…わ、海音君!?」

「久しぶりですね……って、また涙が…」

「いや、だいじょぶ…最近観た映画が面白いし感動するし泣けるしで……思い出し笑いならぬ思い出し泣き」

「へえ……どんな映画ですか?」

「主人公の女の子がね、クラスメイトの女の子に恋するの。結局叶わないって、自殺しようとしちゃうんだけど、最終的にはハッピーエンド!らぶパワー!」

「らぶパワーって……語彙力小学生かよ」

「あはは、でもほんとにいい映画だよ。」


(はー幸せ……全部嘘だけどまあいいか…)

でも、話としてはノンフィクションの予定だから。これは絶対。











「はーい無事留年終わったやばたんまじ死ねる」

新学期。華の高校生……になるつもりだったが、もはやあの状態で留年が回避できる訳もなく、結局もう一度中学三年生を送るはめになった。

でも、今度は病まない。なんでかって?


「……え、先輩…留年?」


じゃじゃーん。精神安定剤。

……石黒 海音君がいるから病まない自信がある。


「ぽんぴん」

「えぇ……」

「引かないで…やめて……」


そりゃ引くか。先輩が同じクラスにいるんだもん。


「……同学年なら…敬語、じゃなくていいな?」


(…かっこいい……ときめき…)



「いいよ。もう1年よろしく、”クロ”。」

「え?くろ……?俺?」

「うん。あだ名。僕だけの。」

「……よろしく。…メイ。」




「海音君、いや、クロと喋った……!タメで……!嬉しい…!」


屋上に吹き抜ける風じゃ、僕の気持ちは冷えない。

心臓がバクバクして、顔が熱い。まるで少女漫画の恋してるみたいだ。


「いつか絶対、付き合う……あ…」


─ふと、現実に引き戻された。

クロの恋愛対象は異性。僕は同性。付き合えるはずがない。

変に幸せな夢を見た感覚に似ている。後から冷めるタイプの。


「そっかぁ、無理か…あはは……そうだよね…クロと付き合えるとか……

涙は出ない。諦めかけてるから。

でも、もう少し……この夢見てたっていいよね。







それから3ヶ月が経った。7月。めっちゃ暑い。寝苦しい。

傷隠すから長袖しか着れないし……不便。


ぴろん。通知音が鳴った。


画面には”明日、会えるか?”のメッセージ。

クロからだ。クロからなんて珍しい。最近なんか様子おかしかったし……


(明日……か)


なんだか悪寒がする。ざわざわ……

でも、貰ったこと自体嬉しいしうれしいから全然OK。


〈それじゃあ、いつもの屋上で。〉


そう返したあと、まぶたが重くなる。もう少し話したい。

僕の想いを、クロと繋ぎたい。でも…



(もうむり、おやすみなさい……)





あとがき

あと1話で終わる気がしない

生きてるだけで偉いよ

それにちゃんと恋愛して自分の楽しみ見つけてんのもえらいよ(ナキ)

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