夜の商店街、ネオンがちらちらと灯り、通りにはラーメン屋の暖簾が揺れている。その暖簾をくぐると、ラーメンの香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
カウンター席には、いさなが頬杖をつきながらメニューを見ている。その隣には萌香が座っていた。二人の目の前には湯気が立つ激辛ラーメンが置かれている。
「なんで激辛頼んだの?」
萌香が首をかしげながら尋ねると、いさなは余裕の表情を浮かべる。
「俺、辛いの得意だからさ〜。全然余裕。」
そう言いながら箸を持つ手は、少しだけ震えているのを萌香は見逃さなかった。
「ほんとかな〜?」
萌香はくすっと笑いながら、自分のラーメンを一口すする。
「ほら、見てなって。」
いさなが勢いよくラーメンをすすった瞬間、顔が一気に真っ赤になった。
「っつっ……!」
額に汗がにじみ出る。口元を押さえながら「全然辛くないし〜」と言い張る彼に、萌香は呆れたように笑った。
「嘘つかなくてもいいのに。」
「嘘じゃないし。」
いさなは無理やり平静を装うが、額の汗は隠しきれない。
萌香は少し考えると、いきなり自分のレンゲでスープをすくい、いさなの前に差し出した。
「ほら、水飲んでないでこれ飲んでみなよ。」
「え、何それ。俺が飲んだら辛さが消える魔法のスープ?」
「違うけど。」
萌香はきっぱりと言い放ち、レンゲを押しつけるように渡した。
渋々スープをすすったいさなは、何か言いかけて、ふと黙った。そして、不意に笑った。
「……なんか、お前、意外と優しいんだな。」
「どういう意味?」
萌香はムッとした顔をしながらも、少しだけ照れたように目をそらした。
その後、いさなは激辛ラーメンを食べきることができず、結局萌香が少し手伝った。二人でラーメンをすすりながら、くだらない話で笑い合うその時間は、何でもない夜の一コマのようでいて、少しだけ特別だった。
帰り道、いさなはふとつぶやいた。
「なぁ、萌香。」
「なに?」
「次は俺が、お前に本気で勝てるラーメンを探してやるよ。」
その言葉に、萌香は思わず吹き出した。
「楽しみにしてる。」
街の灯りが二人を照らす中、二人の影は少しずつ重なり始めていた。
コメント
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やっべ参加型投稿してねぇ